山本能楽堂「水の輪」 川の浄化祈る舞、地域越え
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コラム(地域)
2019/10/11 7:01
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津堂城山古墳で上演された新作能「水の輪」(大阪府藤井寺市)

津堂城山古墳で上演された新作能「水の輪」(大阪府藤井寺市)

山本能楽堂が制作した新作能「水の輪」が上演20回に達した。2009年の初演以来、新作能がこれほど再演を繰り返すのは珍しい。環境問題という現代的なテーマを取り上げたことや、上演する地域ごとにアレンジを加えて「その土地の物語」に作り替える柔軟性があることが、日本各地や海外での上演を可能にした。地元の子どもたちに舞台に参加してもらうなど能の普及にも一役買っている。

■古墳背景に舞台

9月16日、上演20回目の舞台は津堂城山古墳(大阪府藤井寺市)。百舌鳥・古市古墳群が世界文化遺産に登録されたことを記念したイベントの一環で、「水の輪」の舞台が設けられた。暮れゆく空のもと、草木の緑に覆われた古墳を背景にした特設舞台に発光ダイオード(LED)照明が当たり、幻想的な雰囲気の中で能が演じられた。

「水の輪」は、河川の浄化がテーマだ。都からの旅の僧が川の近くを訪れると、舟に乗った女(前シテ)が現れる。女は水の神の化身で、汚れてしまった川の水を元のきれいな水に戻してほしいと訴え姿を消す。僧が祈りをささげると、水が澄み渡り、水の神(後シテ)が姿を現す。前半は神や精霊などの化身が土地にまつわる伝説などを語り、後半に本来の姿で現れる古典的な夢幻能の形式で、現代の環境問題が描かれる。

今回は物語の舞台を地域を流れる大和川とし、僧が目指す旅先を河内国、女と出会う場所を藤井寺市の隣の柏原にするなど、詞章に手を加えた。物語の終盤、水の神が再び水が浄化されたことを喜び、人々の幸せをことほぐところでは、地元の老若男女約50人が地謡として参加。舞台の横や後方に並んだ人々が能楽師らと声を合わせ、星空のもとに謡を響かせた。

■地元参加型に力

参加者らは事前のワークショップで謡の稽古をし、当日の衣装となる紙製の肩衣を作って当日に備えてきた。藤井寺市在住の50歳代女性は「詞章の意味が理解でき、観客として能を見たときよりも楽しめた」と話す。地謡に参加した小学生数人に話を聞くと、異口同音に「また能を演じてみたい」と笑顔をみせた。

山本能楽堂の代表で、シテを勤めた山本章弘は「能を100回見た人より、1回演じてみた人のほうが能を語れる」というのが持論で、地元参加型の公演に力を入れている。

「水の輪」の初演は2009年。「水都大阪2009」のイベントの一環で、大阪市内を流れる大川沿い八軒家浜船着場を舞台に制作した。一般公募した子どもたち約30人が水鳥の役で間(あい)狂言に出演。1カ月以上かけて能や狂言のセリフや動きを稽古し、衣装や小道具を手作りした。

10年に山本能楽堂で上演した際には、日本に滞在する外国人が能について学び、英語や中国語などそれぞれの母国語で「水を大切にする気持ち」を表現。11、12年のブルガリア公演では、日本語を学ぶ現地の子どもたちが、日本語の詞章を稽古して舞台に立った。

山本能楽堂は「水の輪」に続く取り組みとして、9月下旬にブルガリアで新たな新作能「オルフェウス」を初演。ギリシャ神話「オルフェウス」を題材にしたもので、琴の名手、オルフェウスとその妻の霊が現れる。同国の女優、マヤ・ベジャンスカがツレ(オルフェウスの妻)で出演するほか、現地の子どもたちが森の動物たちの役で出演。森の再生がテーマで、水の輪に続いて環境問題を問いかける作品にもなっている。

「『Noh for SDGs』として、『水の輪』と『オルフェウス』を各地で上演したい」と山本。持続可能な開発目標(SDGs)への関心が国内外で高まるのを背景に、能の普及促進にも活用しようと意気込んでいる。(小国由美子)

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