「迷惑かけた」「夢のよう」 ノーベル賞の吉野さん夫妻
ノーベル化学賞の受賞決定から一夜明けた10日午後、旭化成の吉野彰名誉フェロー(71)は、妻の久美子さん(71)とともに東京・日比谷の帝国ホテルで記者会見した。久美子さんは「多くの方に祝ってもらい夢のよう」と喜びをにじませ、吉野さんも「苦しいときは迷惑をかけた。一緒に喜んでほしい」とねぎらった。
前日は深夜まで報道各社の取材に応じ、ホテルに宿泊した吉野さんは新聞各社が1面トップで取り上げているのをみて受賞を実感したという。研究をマラソンに例え、「必ずどこかにゴールがあり、宝物がある。それを信じれば苦しくても乗り越えられる」と訴えた。
受賞について、久美子さんは「今年もダメ、今年もダメと言われ、いつになるんだろうと思っていた」。登山が趣味で「10月の紅葉シーズンは山に行きたい気持ちを抑えてきたが、ようやく解放されて安心できた」と胸をなでおろした。
「私も家内もシャイなので」との吉野さんの前置きから始まった会見。回答に困っている様子の久美子さんに、吉野さんが助け舟を出す場面も目立った。
2人は京都大生だった吉野さんが所属していた考古学サークルを通じて出会った。吉野さんは「私の方がのぼせ上がってというのがなれそめです」と照れ笑い。久美子さんは当時の吉野さんについて「誠実で何事にも一生懸命だった」と振り返る。
たばこをやめるように言っても「ストレスで他の病気になる」と豪語し、私生活でも頑固さを貫くことが多かった吉野さん。食べ物の好き嫌いも多いというが、「要所ではきちんと固めてくるので、安心してついていけた」(久美子さん)。
プライベートではリチウムイオン電池の研究について吉野さんは口にしていなかったが、研究が壁にぶつかっていた際、枕に吉野さんの髪の毛がたくさんついていたこともあったという。
念願の受賞を果たしてお互いにかけたい言葉を尋ねられ、吉野さんは「しゃれた言葉は言えない。苦しいときには迷惑をかけたので受賞を一緒に喜んでほしい」と思いやった。久美子さんも「最高のプレゼントをありがとうございます」と温かなまなざしで夫を見つめていた。

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