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場内実況10年 縁と巡り合わせ、思い出のレース

2019/10/12 3:00
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「十年一昔」という言葉があるように、10年という期間は一つの区切りといわれます。私事ですがこの令和元年の秋、場内実況デビューしてから、ちょうど10年を迎えました。

忘れもしない2009年10月3日の阪神1レース、2歳未勝利戦が筆者の場内実況デビュー戦。「自分の声が場内に響いて聞こえる」という初の経験に、26年の人生でこれほど緊張したことはない、と言い切れるほどの精神状態でした。11頭立てのレースは断然人気のアドマイヤサーフという馬が逃げてそのまま圧勝という分かりやすい形でしたが、何が何だか分からないうちに終わっていました。

以来、全てのレースに何かしらの反省点があり、そのたび自らを恥じる繰り返しですが、そんな中で「巡り合わせを感じる思い出のレース」も少なからずありました。10年の区切りの秋、そんなレースを今回はいくつか振り返ってみたいと思います。

<2011年7月9日 函館5レース 2歳新馬>

筆者が初めて、夏の北海道へ出張した年。この新馬戦で勝ったのは父ステイゴールドとは似ても似つかぬ白い馬体をしたゴールドシップという馬でした。完全に勝ちパターンに持ち込んだ2着馬を、ゴール前でぐんぐん伸びて差し切り勝ち。函館の短い直線で見せたパフォーマンスは、素人目にも「この馬は強いんだろうな」と思えました。

ご存じの通り、ゴールドシップは翌年、皐月賞と菊花賞の二冠と有馬記念を制し、古馬となってからも宝塚記念連覇、天皇賞・春優勝など、長く一線級で活躍しましたが、筆者がゴールドシップの出走したレースを実況したのは結局、新馬戦の1度だけでした。

しかし、それから8年が過ぎた今年7月14日の函館5レース、2歳新馬戦。父と同じ芦毛(あしげ)、灰色がかった馬体をしたサトノゴールドが断然人気に応えました。一度は2着馬にかわされそうになりながら、ゴール前で再びグンと伸びて新馬勝ち。そう、これが新種牡馬ゴールドシップ産駒の中央競馬初勝利だったのです。

父と同じ函館で新馬戦を勝ったゴールドシップ産駒サトノゴールド=JRA提供

父と同じ函館で新馬戦を勝ったゴールドシップ産駒サトノゴールド=JRA提供

それも父と同じ函館芝1800メートルの新馬戦。父と同じ須貝尚介厩舎所属で、担当も同じ今浪隆利厩務員。父に続き、産駒の初勝利も実況することになるとは! キャリアを積んでいくと、こんなご縁もあるのか、とうれしくなったものです。その夜ふと思い立って、8年前のゴールドシップが勝った新馬戦を聞き直すと「こんなひどい声で実況していたの?」と恥ずかしくなりましたが……。

<2018年7月7日 福島9レース 開成山特別>

平地未勝利から障害界の絶対王者になったオジュウチョウサンが、再び平地へ――。陣営がターゲットに選択したのは夏の福島開催2週目に組まれた500万下(現1勝クラス)の芝2600メートル戦、開成山特別。実況担当をチェックしてみると……自分ではないですか! 「一体どんなレースになるのだろう?」と興味は尽きない一戦となりました。

ファンファーレの後に場内から拍手が起き、熱気に包まれた中でレースがスタート。オジュウチョウサンは抜群のスタートを決めて先行グループを占めると、3~4コーナー中間ではもう先頭。双眼鏡を持つ手は震え、下から突き上げてくるG1のような歓声にしびれるような感覚でした。ゴール直後に起きたものすごい拍手の音も忘れられません。

「平地でも連勝は止まりませんでした。10連勝達成! 武豊騎手の手綱で新しい歴史を作りました」というゴール後の言葉も、「歴史の証人になれた」という場内の熱気に引っ張られて、自然に出てきたものでした。

当日行われた共同会見でも武豊騎手が「ゴールの瞬間は拍手がすごくて、ファンを喜ばせる馬なのだと改めて思いました」と語った通り、オジュウチョウサンが日本競馬のスーパースターであることは間違いないでしょう。今年秋初戦の六社ステークス(10月6日=10着)は残念な結果に終わりましたが、また大レースでファンを沸かせてくれることを願わずにはいられません。

<2019年2月17日 東京11レース フェブラリーステークス>

1月の根岸ステークスをコパノキッキングが制した後の東京競馬場。レース後取材から放送席に戻ってきた山本直アナウンサーがこう言いました。「小林祥晃オーナーが『このあとはフェブラリーステークス。皆さんも藤田菜七子騎手が乗るコパノキッキングを見たいですよね』と」。初めて実現する、中央競馬女性騎手のG1騎乗。フェブラリーステークスの実況担当が決まっていただけに、「歴史が動く瞬間を実況することになるかもしれない」と身震いしましたが、レースが近づくにつれての盛り上がりも想像以上でした。

藤田菜七子騎手のG1初騎乗となった今年のフェブラリーステークスの塗り絵

藤田菜七子騎手のG1初騎乗となった今年のフェブラリーステークスの塗り絵

2年連続でこのレースを担当することになり、実況している間も「オーナーが作戦を明かした以上、後ろにいるはずのコパノキッキングがどれだけ追い込めるか」という意識はしていました。直線は逃げるインティと追いすがるゴールドドリームの2頭の争いに絞られ、コパノキッキングは追い込んだものの5着。それでもゴール後、「コパノキッキング藤田菜七子5着!」とリプレーを見ながらフォローした直後に、何か健闘をたたえるような拍手が場内から起きたことが非常に印象に残りました。

そして10月2日、大井競馬場で行われた東京盃(Jpn2)。コパノキッキングと4度目のコンビを組んだ藤田菜七子騎手は、断然人気に応えて堂々と逃げ切り、中央の女性騎手初の重賞(地方・中央交流重賞)制覇を飾りました。実はこの日も、筆者が実況の収録と取材で現地へ行く担当になっていて、快挙達成の瞬間に立ち会うことになりました。

東京盃をコパノキッキングで制し、重賞初勝利を挙げた藤田菜七子=共同

東京盃をコパノキッキングで制し、重賞初勝利を挙げた藤田菜七子=共同

G1初騎乗、重賞初制覇も自らが現場で実況した巡り合わせ。以前、小塚歩アナウンサーが当コラムで「アーモンドアイが走るレースを実況すると無敗」ということを書いていましたが、意外にも?そんな巡り合わせは多いのかもしれません。こうなったら中央の重賞やG1の初勝利も、とついつい期待してしまうのはぜいたくでしょうか。

今も毎レース、ファンファーレが鳴る直前には相当緊張しますし、胃がキリキリするG1の実況が終われば、無性にビールを飲みたくなります。しかし、これほど競馬に近いところで熱気を感じられる、こんな仕事はなかなかないでしょう。10年後、今の自分には考えられないような歴史的シーンが競馬界に刻まれ、その日、実況席にいたのは自分かもしれない――。そんな瞬間が来ることを期待しつつ、場内実況11年目も精進あるのみです。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 大関隼)

 各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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