又吉直樹が描く「人間をやるのが下手な人」

文化往来
2019/10/13 2:00
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3作目の小説「人間」は傾倒する太宰治の代表作「人間失格」を念頭に置いた

3作目の小説「人間」は傾倒する太宰治の代表作「人間失格」を念頭に置いた

2015年に芥川賞を受賞した又吉直樹は、受賞作「火花」で自身と同じお笑い芸人、2作目「劇場」は演劇人と、不器用な表現者を描いてきた。3作目「人間」(毎日新聞出版)は若き表現者たちが集う共同住宅「ハウス」の回想シーンから物語が始まる。創作への姿勢でぶつかり合う彼らの間にはわだかまりが生まれ、複雑な人間模様を呈す。

傾倒する太宰治の代表作「人間失格」が念頭にあった。「太宰が執筆した38歳に達したとき、ある人間の視点から見た世界の一端を知りたいと思った」。主人公も、執筆開始時の自身と同じ38歳。「前2作は20代を振り返るように感情や行為の善悪を考えながら書いたけど、本作はいまの僕が見てる範囲が全てだった」

主人公の永山は絵や文章を書いて生計を立てる。「ハウス」の住人に批判的な目を向けるが、漫才師を目指す奥とはどことなく気があった。奥のような存在は思い当たる節があるという。

「毎年400人以上が集まる東京のお笑い養成所に入ったので、わりと『ハウス』に近い異常な空間にいたのだと思う。その中で奥のような『自分の言葉』を分かってくれる人を探していた気がする」

永山や奥ははた目には不器用だ。永山の言葉で又吉は「僕たちは人間をやるのが下手」だと表現するが、それは自身にも向けられているようだ。「人間をやっていく上で恵まれた才能がないというか、どうやって笑ったり泣いたり怒ったりするんやっけ、こういう場合どう驚けばいいんやろとかいつも考えている。逆に(無邪気に)めっちゃ笑う人とか好きですもん」

「生きづらそうに見える永山たちを見て、苦しみや悩みに対してさらに悩む必要はないよ。苦しんでいる状態が変ではないよ、と自分に言い聞かせることがある」。その言葉から「人間をやるのが下手でもいい」。そんなメッセージが伝わってくる。

(村上由樹)

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