「食の街」大阪、楽しく格好良く 中井貫二 千房HD社長
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関西タイムライン
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2019/10/9 7:01
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中井貫二 千房ホールディングス社長

中井貫二 千房ホールディングス社長

■千房ホールディングス社長の中井貫二さん(43)は元証券マンだ。創業者である中井政嗣会長の三男。後継者だった長男が急逝し経営を引き継いだ。道頓堀商店会の副会長を務めるなど大阪の飲食業界の振興にも励む。

大阪には地元に長く愛されてきた名店がたくさんある。単に料理がおいしいだけではなく、店の女将さんやおやじさんが作り出す雰囲気が魅力的だ。会話を楽しみにやってくる人も多い。積極的に客と親しくなろうとするいい意味での「お節介さ」は魅力だ。

最近は高齢化で人情味あふれる店がなくなっていくのがさみしい。飲食店をやりたがる若者は少なく、後継者がいない。外食はなくても困りはしないが、心の豊かさを作り出す重要な産業だ。「食の街」として栄えてきた大阪にはなおさらだ。まるで生まれ育った街が少しずつ変わり、マンションばかりになったかのような感情を覚える。

■後継者を育てるには外食業界が持つマイナスイメージを変え、皆が憧れる職業にする必要がある。

業界の社会的地位を上げることが私の最大の仕事だ。飲食には「就職できなかった人がやる力仕事」という印象がある。実際はその逆でとても頭を使う仕事だ。どうしたらお客様が喜ぶか考えるのは人工知能(AI)やロボットには決してできない。それなのに「飲食はブルーカラー」と言われるのが許せない。

労働集約型の産業であることは否めない。売り上げに占める人件費の比率は平均で25~30%と他業種に比べてかなり高い。ただ効率化ばかりに目を奪われてはいけない。外食は非効率こそが付加価値になる商売だからだ。例えば、お客様が飲む水をセルフサービスにしたら人件費は削れるが、店の高級感はなくなる。

問題は日本の外食の価格水準が安すぎることにある。人件費の他に材料費や賃料などを差し引くと最終利益は5~10%程度しか残らない。「誰でもできる仕事」という印象から不当に買いたたかれているからだ。だが実際は違う。元証券マンの私はお好み焼きを焼くことすらできない。

高いものを高く売れる業界にするにはブランディングが大切だ。話題性のある情報を発信し、皆が働きたいと思う会社にする必要がある。例えばコーヒーチェーン「スターバックス」にはアルバイト希望者がたくさん集まる。高単価の商品も売れる。かっこいいという印象があるからだ。

「野村証券では社会人としての基礎をたたき込まれた」という(前列右端が中井さん)

「野村証券では社会人としての基礎をたたき込まれた」という(前列右端が中井さん)

■一度は離れた大阪は「やっぱりおもろい」

大学進学とともに上京し、一番厳しいと聞いていた野村証券に就職した。千房は長男である兄が継ぐことになっており、二度と大阪に戻ることはないと思っていた。なにより父の息がかかった街で働くのは嫌だった。野村では社会人としての基礎はすべてお客様から教えていただいた。学んだことは私の原点だ。

ただ我々のような中小企業がすべてまねできるわけではない。例えば、大手には優秀な人材がたくさんいるので、だめな人間は辞めさせればいい。中小ではどんな人材も受け入れ、育てる必要がある。

幅広い人材を受け入れるという意味で、2013年に始めた受刑者の採用制度「職親プロジェクト」は大阪的だ。刑務所の中で面接し、出所したら社員として働いてもらう。「どんな人間にもやり直す道はある」という千房創業者の考えのもと、関西企業7社が共同で始めた。関西独特の「お節介さ」があってこそ成立した試みかもしれない。

訪日客が増え始めた14年に大阪に戻ってきた。国際博覧会(万博)の開催が決まり、関西経済が盛り上がってきているのを感じる。大阪独自の魅力的なコンテンツを世界に発信していってほしい。

(聞き手は渡辺夏奈)

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