香港、もろ刃の強硬策 半世紀ぶり「緊急条例」

習政権
中国・台湾
2019/10/4 22:26 (2019/10/5 2:31更新)
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4日、覆面禁止規則に反対し、香港中心部をデモ行進するマスク姿の参加者ら=ロイター

4日、覆面禁止規則に反対し、香港中心部をデモ行進するマスク姿の参加者ら=ロイター

【香港=木原雄士】香港政府は4日、「緊急状況規則条例」の発動を決めた。これに基づき、デモ参加者が顔を隠すのを禁じる「覆面禁止規則」が5日午前0時(日本時間同1時)に施行された。過激なデモを徹底して抑え込む姿勢を鮮明にしたが、立法手続きを踏まない異例の措置は、抗議活動の先鋭化や国際社会の反発を招く恐れがある。香港が強みとしてきた「法の支配」への信頼が揺らぎ、国際金融センターの地位低下など自らにリスクが跳ね返りかねない。

「いまの状況を考えるとどうしても必要な措置だ」。香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は4日の記者会見でこう強調した。

緊急条例ができたのは香港が英国の植民地だった100年近く前。最後に発動したのは1967年だ。文化大革命の影響が波及し、左翼勢力の暴動が起きた。夜間外出禁止令が発動され、爆弾テロで一般市民を含む多くの犠牲者が出た。

いまの香港はデモが過激化しているとはいえ、当時とは状況が違う。政府が決めたのはデモ参加者の覆面禁止だけで、親中派などはフランスやカナダにも同様の規定があると主張する。覆面禁止規則は16日に新たな会期が始まる立法会(議会)で改めて審議する予定だという。

香港の憲法にあたる香港基本法には中国の人民解放軍に出動を要請できる規定がある。緊急条例の発動は異例とはいえ、軍出動などに比べると、香港政府にとってハードルの低い選択肢だった。

もっとも、今後さまざまな規制が導入される懸念はぬぐえない。民主派議員の陳淑荘氏は4日、「覆面禁止は夜間外出禁止令や勾留期間の拡大など人権を制限する他の措置につながる最初の一歩にすぎない」と批判した。

4日、香港で覆面禁止法に反対するデモがあった=ロイター

4日、香港で覆面禁止法に反対するデモがあった=ロイター

理屈のうえでは、緊急条例を使えば集会や通信の禁止にとどまらず、私有財産の差し押さえや報道の禁止などもできる。民主派は戦争などの際に立法や行政の権限を軍に委ねる「戒厳令」に近い事態につながりかねないと批判してきた。

4日の香港株式市場は行政長官が記者会見するとの一報が流れると、ハンセン指数が一時2%近く下落した。「覆面禁止以外の措置が発表される可能性がある」との見方で売りが出たという。

三権分立を無視するようなやり方にも異論が根強い。香港大学の張達明・首席講師は「政府が立法手続きを踏まないと世界に示すことになる。香港の悪い前例になる」と指摘する。

緊急条例の発動を受け、国際社会からは批判が相次ぐ。英国のラーブ外相は4日、「政治的対話が問題解決の唯一の道だ」との声明を発表した。台湾の黄重諺・総統府報道官も同日、「人々の自由を制限するのではなく、民主主義を渇望する声に耳を傾けるべきだ」と香港政府に呼びかけた。

香港は中国本土と異なる透明性の高い法律や規制が、金融センターの高い評価につながってきた。デモ隊が過激な暴力を繰り返し、政府は立法手続きを踏まない異例の措置で対抗する。こんな状況が続けば、香港から専門人材や投資マネーの流出が加速しかねない。

4日夜には香港島中心部の政府庁舎が集中する金鐘(アドミラルティ)などに多くの人が集まり覆面禁止に抗議した。一部は幹線道路を占拠してバリケードを築いたり、火を放ったりした。大規模デモのきっかけになった「逃亡犯条例」改正案は政府が撤回に追い込まれた。SNS上では覆面禁止を新たな「悪法」と呼んで、徹底抗戦を呼びかける投稿が飛び交っている。

緊急状況規則条例
▽…香港の「緊急状況規則条例」は、行政長官が公共の安全に危険が及ぶ緊急事態と判断した場合に立法会(議会)の同意なしに適用される。英植民地時代の1922年に制定されたもので、適用されるのは香港が混乱に陥った67年の反英暴動(六七暴動)以来およそ半世紀ぶりとなる。今回は過激化するデモを抑える狙いがある。
▽…立法・行政・司法の一部やすべての行使を軍に委ねる一般的な「戒厳令」ほど厳格ではないものの、適用対象の範囲は多岐に及ぶ。今回はデモ参加者などにマスクの着用を禁止することなどを決めた。緊急条例では、状況に応じてインターネット通信の遮断や出版物の検閲もできる。逮捕や拘留に加えて、人や貨物輸送の管制、輸出入など経済活動の制限も可能だ。

▽…このほか香港には緊急事態に関連する法規として、集会を3カ月を超えない期間で禁止できる公安条例がある。治安維持や災害救助などを目的に、中国政府に駐留軍の出動を要請することなどを定めた香港基本法も設けられている。
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