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配当利回り6%超 JT株不人気の不思議(窪田真之)

楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト

写真はイメージ=PIXTA

ずっと主張していますが、日本株は配当利回りや買収価値からして「割安」です。不安材料があって株が安くなっている時に、コツコツ投資していくことが長期的な資産形成に寄与します。まずは手始めに大型の高配当利回り株から投資するといいでしょう。好例が予想配当利回りが足元で6.6%まで上昇しているJT(日本たばこ産業)などでしょう。

予想配当利回りは6.6%

JTは株主への利益配分に積極的な会社です。過去、増配や自社株買いを積極的に実施してきました。にもかかわらず、株式市場でJTは不人気株です。国内で喫煙規制強化の話が出るたびに売られ、株価は過去4年間下げ続けてきました。

以前は成長株として高評価だったこともあります。JTはM&A(合併・買収)巧者です。たばこ需要が拡大している新興国で、たばこ会社を次々買収し利益を拡大させてきました。2015年12月期の純利益は過去最高の4856億円を計上しました。その頃まで成長株として評価され、株価は上昇が続いていました。ところがその後、国内の喫煙人口減少などの逆風下で減益が続いています。今期(2019年12月期)の純利益は3600億円まで減少する見通しです。減益を嫌気し株価は下落が続いています。

過去10年のJT株の推移

(楽天証券経済研究所が作成)

過去1年あまりの株価をみても同様に下落基調です。JTは16期連続で増配(1株当たり配当金を増やすこと)を予定しています。それでも株価が下げ続けているため、予想配当利回りは逆に上昇を続けています。10月3日時点では6.6%に達しています。

過去1年のJT株の予想配当利回りの推移

(楽天証券経済研究所が作成)

【注】予想配当利回りの計算方法
JTが開示している会社予想の1株当たり年間配当金を株価で割って算出。10月3日時点で19年12月期の会社予想の1株当たり配当金154円を同日の株価2342円で割ると配当利回りは6.6%となる。1株当たりの配当金予想が変わらなければ、株価下落は配当利回り上昇につながる。

安定高収益企業だが……

国内の喫煙人口が減少していく中、JTが衰退していくイメージがあるかもしれません。でも実際は安定高収益企業です。営業利益率(18年12月期実績)は25.5%と高収益であり、自己資本比率も48.2%と財務も良好です。自己資本利益率(ROE)も14.3%と極めて優秀。これだけみれば安定高収益の高配当利回り株として評価されていいはずです。

しかし、株式市場での評価は高くありません。それには3つの理由が考えられるでしょう。

売られる理由(1)~国内での喫煙者減少

他人の喫煙で出たたばこの煙を吸入してしまう「受動喫煙」を防ぐ法律が強化されつつあります。18年7月に健康増進法の一部が改正され、19年7月には学校・病院などの敷地内が原則禁煙となりました。20年4月には全面施行となり、全ての建物の屋内が原則禁煙となります。喫煙可能なのは、喫煙を主目的とする店舗(バーやスナックなど)や公衆喫煙所、屋内に設けた喫煙スペース(喫煙室)に限られます。なお喫煙室には標識の掲示が義務付けられ、20歳未満の立ち入りが禁止されます。

東京都は国の規制をさらに強化し「東京都受動喫煙防止条例」を制定しました。20年4月から全面施行され小規模の外食店で実質的にほとんど喫煙ができなくなる可能性もあります。こうした一連の規制強化を受け、国内の喫煙人口はさらに減少が続く見込みです。

売られる理由(2)~次世代たばこでの出遅れ

米国や日本などで紙巻きたばこに代わって加熱式や電子式の次世代たばこの普及が進んでいます。紙巻きたばこは葉を燃やしてその煙を吸うため、副流煙が周囲に広がる問題がありますが、次世代たばこは火を使わず副流煙が出ません。世界的に禁煙や分煙が進む中、特に米国と日本では次世代たばこに乗り換える人が増えています。

その主戦場でJTは国内で次世代たばこ「プルーム・テック」を販売していますが、日本ではフィリップ・モリス・インターナショナルの「アイコス」の方が人気があり、プルーム・テックのシェアは低下気味です。次世代たばこでの苦戦が将来の不安材料として意識されています。

売られる理由(3)~ESG投資の「逆風」

日本を含めた世界の年金基金などの間では、環境や社会的責任、ガバナンスを重視して銘柄選別する「ESG投資」の波が広がっています。JTは健康に害のあるたばこを販売しているという理由でESG投資の際、除外銘柄となることがあります。

以上の3つの不安材料でさえない株価が続いていますが、私は「売られすぎ」と考えます。理由を以下に述べます。

不安材料(1)への反論~国内喫煙者減でも高収益を維持

事実として国内で喫煙者が減少する間もJTは値上げによって高収益を維持してきました。ちなみに10月に消費税が8%から10%に上がりましたが、JTはここでも値上げをしました。さらにM&A巧者のJTは、有利な価格で海外のたばこ会社を買収し、海外収益を拡大してきました。特にたばこ人口が増えている新興国が収益拡大に貢献しています。

不安材料(2)への反論~次世代タバコでも巻き返し

次世代たばこでJTのプルーム・テックが米フィリップモリスのアイコスに負けている理由は明らかです。アイコスの方が吸い応えが強いのです。そこでJTは「プルーム・テック・プラス」「プルーム・エス」の2製品を新たに出し、巻き返しを図っています。共に吸い応えを強めアイコスに近づけています。次世代たばこの国内シェアが下げ止まれば、JT株に対する投資家の不安は和らぐと考えています。

不安材料(3)への反論~「ESGディスカウント」で割安に

こう熱心に擁護していると私が愛煙家と思われるかもしれませんが、実はたばこは吸いません。ですからESGファンドだけでなく、個人投資家の間でもたばこを嫌って「JTに投資したくない人」がいるのもよく分かります。

ですが、投資と好き嫌いは別物。投資の世界で買い手が少ないということは、その分、株価が低迷し結果的に本来の企業価値よりも割安に放置されやすくなっている可能性があります。いわば「ESGディスカウント」が付いている状況です。長期のリターンを考えたときに見逃す手はありません。

JT以外でも大型の高配当株が増えています。三菱UFJフィナンシャル・グループ三菱商事NTTドコモブリヂストンなどです。こうした大型の高配当株は投資の好機と判断しています。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムで、原則火曜日掲載です。
窪田真之

 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト。1961年生まれ。84年慶応義塾大学経済学部卒業後、住友銀行(当時)入行。99年大和住銀投信投資顧問日本株シニア・ファンドマネジャー。2014年楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト、15年所長。大和住銀では日本株運用歴25年のファンドマネジャーとして活躍した。

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