転移がんをウイルス薬で退治へ 東大など
NextTech 2030

日経産業新聞
2019/10/4 2:00
保存
共有
印刷
その他

細胞に感染して増えるウイルスを使ってがん治療の実用化に向けた研究が加速している。東京大学の藤堂具紀教授らが開発した新しい遺伝子組み換えウイルスは、現行では治療が難しい種類の固形がんにも効く可能性があるほか、転移したがんなども治療できる見通しだという。2030年ごろには、様々な機能を持つ「がんウイルス療法」が新たながん治療の主役のひとつになるかもしれない。

ウイルスを感染させることでがん細胞を退治する。左は投与直後、右は投与から48時間後、悪性脳腫瘍の細胞が壊れた(藤堂教授提供)

ウイルスを感染させることでがん細胞を退治する。左は投与直後、右は投与から48時間後、悪性脳腫瘍の細胞が壊れた(藤堂教授提供)

藤堂教授らは信州大学の奥山隆平教授らと組んで、がん細胞だけを壊し、さらに免疫を刺激してがんを攻撃させる2つの機能を併せ持つ最新の治療用ウイルスを使った臨床試験(治験)に乗り出す。皮膚がんの一種「悪性黒色腫(メラノーマ)」の患者に投与して、安全性や効果を調べる。先月末に治験参加者の募集を始めた。「これまでよりも高い効果が出るはず」と意気込む。

ウイルス療法の原理は、細胞の"乗っ取り"だ。ウイルスは細胞に感染すると、遺伝子に入り込み細胞に自分自身のコピーを作らせる。増えたウイルスは細胞を破壊、次々に細胞に乗り移る。この仕組みを使いがん細胞を殺す。

最大の強みは「ひとつの腫瘍に投与したウイルスが全身に作用すること」(藤堂教授)だ。ウイルスは時間がたてば免疫細胞によって除去される。だが同時に、がんの特徴を覚えた免疫細胞が全身を巡り、転移したがん細胞を攻撃するようになるという。

ウイルス療法の歴史は古いが、治療手段候補として脚光を浴び始めたのは90年代初め。米研究者マルトゥーザ氏らが、遺伝子組み換え技術でウイルスの遺伝子の1つを働かないようにすることで、ほぼがん細胞だけでウイルスを増やせることを示したことがきっかけだ。

藤堂教授らが新たに開発したウイルス「G47デルタ」は、ヘルペスウイルスをもとに改変。3カ所の遺伝子の働きを抑えて、正常細胞にはまったく感染せず、がん細胞だけで増えるように設計した。さらに今回の治験では、G47デルタに1つの遺伝子を加えた「機能付加型」ウイルスを使う。組み込んだ遺伝子から作られる「IL12」というたんぱく質が、がん細胞でウイルスと共に作られる。がん細胞のまわりに分泌されて免疫の働きをさらに高めるという。

治験ではメラノーマ患者6人で安全性を確かめる。18人に免疫治療薬「オプジーボ」と併用し相乗効果も確認する。具体的な治療法を模索し、5年後をメドに承認申請を目指している。

ウイルス療法の特徴は、狙った機能を遺伝子組み換え技術で設計し、付加できる点。ただ、現在の想定では、ウイルスを固形がんそのものに直接注射などで投与する。周囲の腫れなどの副作用が生じる懸念もある。藤堂教授らはG47デルタに別の遺伝子を組み込むなどして、腫れにくいウイルスの開発にも取り組む。

将来は、がんの種類別や、進行度別など目的にあったウイルスができるという。藤堂教授は「患者にあわせて複数のウイルス薬を混ぜて使う日が将来くる」と予測する。

国内ではがんウイルス療法の治験や臨床研究が複数進行中だ。藤堂教授らは悪性の脳腫瘍の一種「膠芽腫(こうがしゅ)」を対象にしたG47デルタの治験を終了。研究グループは年内に医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認申請する予定だ。
 一方、3月に日本で初めてがんウイルス治療薬の承認申請をしたタカラバイオは、9月下旬、申請を取り下げた。既存の抗がん剤と同程度の効果を示すのが難しかったという。既存薬と比べたメリットを十分示せる治験デザインを模索するという。
 がんの新治療法は、既存薬を上回る効果や併用効果などを治験などで示さなくてはならない。特に、がんウイルス療法のような新たな技術は使い方の戦略・立案が重要だ。
2015年に米食品医薬品局(FDA)が、米国初のがんウイルス治療薬「イムリジック」を承認した。だが現段階では、米国でのがん治療として定着したとは言えない。実用化後も使い方など検討を積み重ねる必要がある。
 ウイルス療法は多様な可能性をもつ。将来は「がんが見つかったらまずウイルスを投与して、がんへの免疫をつける使い方も考えられる」(藤堂教授)。まずは日本初のがんウイルス治療薬の実用化だ。

(スレヴィン大浜華)

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]