カバとハイエナが20分じゃれ合い 遊び?情事?

ガイド歴23年のパトリック・ヌジョブー氏にとって、ザンビアのサウスルアングワ国立公園で車を走らせるのは、いつものことだ。しかし、この日は違った。
7月のある朝、ヌジョブー氏が車でツアー客をガイドしていると、ルアングア川からカバが現れ、睡眠中のブチハイエナに近づいた。ハイエナはすぐに目を覚ました。
「ハイエナは逃げませんでした」と、シェントン・サファリズのヘッドガイドを務めるヌジョブー氏は、ナショナル ジオグラフィックの取材に対しメールで説明した。「2頭は鼻を突き合わせ、互いのにおいをかぎ始めました。まるでキスしているようでした」。若い2頭は20分ほど一緒に過ごした。鼻と鼻が触れ合い、ハイエナはある時点で、あおむけに姿勢を変えた。「本当にとても不思議な光景でした」
ヌジョブー氏はサファリツアーの公式ブログで「ハイエナとカバの情事」と紹介しているが、専門家たちによれば、若さゆえの好奇心による可能性が高いという。
「あくまでも推測ですが、若いカバはハイエナに興味があったのだと思います。そして、カバが攻撃的でなかったため、ハイエナは身の危険を感じることなく、逃げ出さなかったのでしょう」と、英エクセター大学の行動生態学者ロブ・ヒースコート氏は言う。
若い動物が好奇心旺盛なのは、限界を試し、未知なるものについて学ぶためだ。「ただし、この交流が何を意味しているのか、実際のところはわかりません。このようなことはめったになく、本格的に研究されていないためです」
恐怖のサインも
タンザニアのンゴロンゴロ・クレーターでブチハイエナの研究を行うアルジュン・ディール氏は「互いに好奇心があったことに疑い」はないとしながら、両者とも互いに恐れを抱いていたようだと言い添えている。
「ハイエナが耳を寝かせ、頭を傾けているのは、服従または恐怖を示すボディーランゲージです」。ディール氏はドイツのライプニッツ野生動物研究所で博士号の取得を目指す学生だ。
カバがあくびをしているような写真もあり、こちらは威嚇かもしれない。「カバは縄張り意識が強いため、ハイエナが水場の近くにいることが気に入らなかったのかもしれません」とディール氏。
ハイエナはアフリカで最も成功している捕食者のひとつだが、カバも非常に危険な動物で、毎年、多くの人が命を奪われている。
キスの可能性は?
2頭はただ遊んでいただけとも考えられる。ワニからカワウソ、イヌまで、「遊び」はこれまでさまざまな動物で確認されている。
米ノックスビルにあるテネシー大学の生物学者ゴードン・ブルクハルト氏は、遊びの科学的な定義を次のように説明している。「自分のために行われる反復的な楽しい行動。ほかの日常的な行動と似ているが、同じではない。また、健康な動物が行い、ストレス下で行うものではない」
ただし、エクセター大学のヒースコート氏は「遊びという行動は十分に研究されておらず、実際の機能はまだほとんどわかっていません」と述べている。
ライプニッツ研究所のディール氏が1つ確信しているのは、2頭ともキスをしているつもりはないということだ。「動物を擬人化したくなる気持ちはわかりますが、私にはとても情事には見えません」
(文 KATIE STACEY、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年9月26日付]
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