お遍路さん歩きませんか? 減少に危機感、訪日客期待
お遍路さん継承の危機(上)

2019/10/2 6:33
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1番札所の霊山寺には多くの人が訪れるが、遍路客数は減少傾向にある(徳島県鳴門市)

1番札所の霊山寺には多くの人が訪れるが、遍路客数は減少傾向にある(徳島県鳴門市)

四国観光の「原風景」ともいえる「お遍路さん」の姿が減っている。多くのお遍路さんが使う21番札所、太龍寺(徳島県阿南市)へのロープウエーの乗客はここ数年、8万人弱と2000年前後の6割の水準にとどまり、最近の調査では巡礼者はこの10年で4割減ったという。ただ、40~50日かかる「歩き遍路」では外国人比率が伸びており、巡礼客の減少に直面する宿泊施設などは訪日客誘致に期待を寄せる。「四国は一つ」を体現できる遍路再興に向けた最前線を追った。

【連載「お遍路さん継承の危機」記事一覧】
(中) お遍路さんの宿、廃校や空き家が衣替え 多言語対応も
(下) お遍路さんは地域の「経済基盤」 四国企業、もてなし強化

「お遍路さんは、四国の日常の風景」。こう語る香川県さぬき市にある86番札所、志度寺の十河瑞澄副住職は、「実感としてその姿が減っている」と内心の焦りを隠さない。江戸期に確立したとされる88カ所の札所を巡る四国遍路は、1953年に伊予鉄道が「バスによる巡礼」を始めたことで団体バス遍路が普及。四国内での道路整備が進んだことでマイカーによる巡礼も増えていった。

しかし、バブル経済の崩壊が人々を巡礼から遠ざけた。1998~2002年度には平均13万5000人が利用した太龍寺ロープウエーの乗客は01年度をピークに減少が続き、18年度は5万5000人、14年度からの5年間でも平均7万8000人にまで減った。6月に四国経済連合会と四国の地銀4行による四国アライアンスが発表した調査報告書によると、アンケートに回答した36カ所の札所すべてで10年前に比べ巡礼者が減ったと答え、減少率は平均38%に達したという。

遍路客の減少は地元に様々な影を落とす。88カ所の札所とともに四国全土に散在する巡礼客をもてなす旅館などが減っている。宿泊施設の経営者が減り、地域の人口減に拍車がかかる。そして遍路道の維持修理も難しくなり、数世紀にわたって人々が育んできた遍路さんに食べ物や飲み物を無償で施す「お接待文化」の担い手がいなくなり、四国の魅力が失われていく――。

そんな事態を避けるには、お遍路を増やすしかない。その切り札と期待されてるのが訪日客だ。お遍路減少に危機感を示した志度寺の十河副住職によれば「ここ数年、台湾や香港などアジアからの訪日客が増えており、18年には初めて訪日客の参拝者が1000人を超えた」という。長期休暇で日程に余裕があり、「お遍路さん」として四国を楽しむ訪日客は、着実に増えている。

NPO法人「遍路とおもてなしのネットワーク」では04年4月から、徒歩や自転車で88カ所を巡り、遍路を結願した人に「遍路大使」としての任命書を手渡しており、ここ数年、2500人前後が「歩き遍路」を達成している。05年6月30日までの1年間に10人だった訪日客は14年に初めて100人を突破、19年には345人に達した。全体に占める比率も17年に1割を超え、19年は2年連続で15%を超えた。

同ネットワークによると18年に416人だった訪日客のうちフランス人が66人で最も多く、台湾の46人、米国の40人と続いた。地域別では欧州が約220人で過半数を占め、100人弱だったアジアを大きく上回った。フランスからの遍路客は「地元で出版された四国遍路の本を読んで訪れる人が多い」と宍戸栄徳事務局長。訪日客に遍路の作法などを伝えている宍戸さんは、フランスからの遍路客が語った「スピリチュアルな体験だった、という感想が心に残っている」という。

増える訪日客に札所の寺院も対応を始めた。徳島県阿南市にある22番札所、平等寺では18年末、お賽銭(さいせん)をQRコードで決済する端末を導入した。国内でもキャッシュレス決済が普及するなか、「寺だけが時代に乗り遅れてしまえば、取り返しがつかなくなる」と谷口真梁住職。周囲からは「面白い取り組みだ」という声がある一方、「信仰心をないがしろにしている」との批判も聞かれる。それでも訪日客が増えキャッシュレスが普及するなか、「早い内に議論を起こしたかった」と谷口住職。

四国・讃岐の地に弘法大師が生まれて千数百年。その息吹を伝えるお遍路が今の形になってから幕末維新を超え、戦後の混乱期を乗り越えて続いてきたのは、時代時代の変化を受け入れ、いつの世も代わらぬ煩悩を抱えた人々に寄り添ってきたから。少子高齢化、グローバル化、キャッシュレス化と大きく変わる今の世にどう対応していくのか、「お接待」の真価が問われている。

■11月にパリで展示会 目指すは世界遺産

訪日客にお遍路を楽しんでもらうには、日本に来る前に知ってもらわねば――。11月、パリで遍路旅の展示会を開く。その先には知名度向上による「四国八十八箇所霊場と遍路道」の世界遺産登録、という目標がある。

お遍路の世界遺産登録の機運は2006年の文化庁による候補地公募がきっかけだった。手を挙げたものの審査で落ちたため、四国経済連合会や4県知事、自治体や大学などが10年に「『四国八十八箇所霊場と遍路道』世界遺産登録推進協議会」を立ち上げた。

協議会は7月、外国人向けプロモーション動画の制作をドローンを活用した動画撮影技術をもつアピパデザインスタジオ(松山市)に委託することを決めた。パリでの展示会も共催する。認知度を上げ、訪日旅行の計画に組み込んでもらって遍路客を増やす狙いだ。

1993年に登録されたスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」で世界各地からの観光客が急増したことも、お遍路登録を目指す原動力になっている。ただ、訪日客に目を奪われること無く、国内で団塊の世代の引退や働き方改革で休みが増える層を呼び込む策を練ることも、お遍路を後世に残すために必要だろう。

四国遍路 香川県善通寺市で生まれたとされる真言宗の開祖、弘法大師(空海、774~835年)ゆかりの寺院88カ所を巡ること。一番の霊山寺(徳島県鳴門市)から八十八番の大窪寺(香川県さぬき市)まで霊場(札所)の番号が振られている。11世紀後半~12世紀前半に原型が生まれ、17世紀には現在の形になったとされている。
 四国全体に散在する88の札所を結ぶと約1400キロメートルになり、歩くと40~50日かかる。始める札所や順番に決まりはなく、江戸時代には僧侶による修行だけでなく、救済や現世利益を求める庶民にも広がった。巡礼者は「お遍路さん」と呼ばれ、食べ物や飲み物を無償で施す「お接待」文化が根付いている。

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