インベブ、財務改善を優先 香港上場で5400億円調達
アジア攻勢へ準備急ぐ

アジアBiz
2019/9/30 23:00
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30日、香港上場を記念してビールで乾杯するバドワイザーAPACの関係者

30日、香港上場を記念してビールで乾杯するバドワイザーAPACの関係者

【香港=木原雄士、ジュネーブ=細川倫太郎】ビール世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)のアジア子会社は30日、香港取引所に株式を上場した。約5400億円を調達し、今年の新規株式公開(IPO)では米ウーバーテクノロジーズに次ぐ大型上場で、株式市場は好感した。だが上場までには紆余曲折(うよきょくせつ)があり、世界最大手らしからぬ苦しさが見て取れた。今後は成長が見込めるアジア市場でどこまで食い込めるかが勝ち残りのカギとなる。

上場したのは日中韓や東南アジアなどアジア事業を統括するインベブ子会社の「バドワイザー・ブリューイング・カンパニーAPAC」。インベブ全体の売上高は5兆円強だが、そのうち上場したアジア子会社は約7千億円規模に相当する。同社のジャン・クラップス最高経営責任者(CEO)は30日の上場式典で「アジアは世界最大のビール市場だ。まだ多くの成長機会がある」と今後の事業拡大に向け意気込みを語った。初値は27.4香港ドル。公開価格の27香港ドルを上回り、滑り出しは上々だったと言える。

ただ、ここまでに来るには曲折があった。今年に入り同社の香港市場への上場観測が伝わると、今春以降は「今年最大のIPO」としてさらに市場で期待が高まった。この流れを受けて7月、同社は満を持して最大98億ドル(約1兆500億円)の調達を狙った上場を正式発表したが、これがかなりの期待外れ。

財務体質の思わしくない同社の経営が見透かされ、上場予定日の1週間前に急きょ、上場を中止する失態を演じた。そんな市場の冷たい反応を受け、インベブはすぐに動いた。オーストラリア事業をアサヒグループホールディングスに約1兆2千億円で売却すると発表。「交渉は1週間足らずでまとまった」と関係者が明かすほどの慌てぶりで話が決まったという。

もともと豪事業の17~19年のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の年平均伸び率は0.1%。大きな成長が期待できないながら、豪事業の売却で財務改善に一定のメドが立ち、再び香港上場への道が開けた。そのためアサヒへの売却発表から2カ月もたたないうちにインベブは再び香港上場を申請し、今回の正式上場に至った。しかし、この大手らしからぬドタバタぶりは、インベブが抱えた巨額負債を振り返る必要がある。

インベブは2016年、英SABミラーを買収し、約1000億ドル(10兆円強)の巨額負債を抱えた。QUICK・ファクトセットによると、EBITDAに対する純有利子負債の水準は16年末に7倍程度まで上昇。その後も改善は鈍く18年末時点でも約5倍と、財務体質の改善が急務だった。ビール大手なら2~3倍が適正水準。いかにインベブの財務状況が厳しかったかがうかがえる。

なんとか今回の香港上場で財務の改善につなげたインベブだが、今後に向け、肝心の事業面でも不安は少なくない。特に先進国では若者のビール離れが進み、主力の北米は販売量の頭打ちが鮮明。18年12月期は前の期比で約2%減少した。お膝元の欧州でも個性的な新興クラフトビールメーカーとの厳しい競争にさらされている。

そんな状況で、インベブの成長のカギを握るのはアジア市場の開拓だ。アジア太平洋市場の販売量は約2%増(18年12月期)と成長を見せ、インベブのカルロス・ブリトCEOも「アジアで首位になる」と意気込む。

ただアジアの競争も易しくはない。英調査会社ユーロモニターによると、インベブは世界のビール市場のシェア27%を握り2位以下を引き離すが、アジア太平洋のシェアは14%。中国の華潤ビール(17%)に次ぐ2位で、青島ビール(12%)にも迫られている。

さらにアジアでは国ごとにすみ分けが進んでおり、攻略は一筋縄ではない。高級ビール市場が拡大する中国やベトナムは、ライバルのハイネケン(オランダ)が先行する。カールスバーグ(デンマーク)はマレーシア、キリンホールディングスはミャンマーに強いといった具合だ。

インベブが巻き返すにはやはりM&Aが手っ取り早い手段になる。インベブも承知で、具体的には既にタイ飲料大手のタイ・ビバレッジなどの買収観測が浮上するほか、ベトナムでもM&Aの情報がくすぶる。

巨額買収が続き、戦国市場にある世界のビール業界。その中心にいるインベブについて、オランダ金融大手ラボバンクの飲料アナリストのフランソワ・ソヌビル氏は「アサヒへの豪州事業売却で巨額資金を得たが、それでもまだ財務面での柔軟性は限られていた。(狙いを定めたとされる)東南アジアで企業買収を進めるには、やはり香港上場が欠かせなかった」と指摘する。

その上場に成功した今、インベブはひとまず混乱を乗り越え、反転攻勢の態勢を整えたかに見える。上場を受け、日本のビール大手首脳も「負債倍率の下がったインベブは、成長市場に攻めてくるのではないか」と早速身構えた。大手が出そろい、アジアを巡る覇権争いは今後いよいよ本格化することになりそうだ。

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