「店内で飲食」カードで申告 消費増税ドキュメント
10月1日、消費税が8%から10%に引き上げられた。食品などを対象にした軽減税率の導入や、キャッシュレス決済時のポイント還元など、小売店や飲食店はこれまでの増税時とは異なる対応が求められる。奔走する現場を追った。
レジトラブルでポイント使えず

「ドトールコーヒー」の一部店舗のレジでは、1日朝からシステムトラブルが発生した。キャッシュレスでの支払いや自社カード「ドトールバリューカード」のポイントが利用できなくなった。詳細な原因については調査中だが「今朝にかけて実行した消費増税のためのシステム切り替えがうまくいかなかった可能性がある」(同社広報)としている。トラブルが起きた店舗でも、現金決済で営業は続けている。
消費税率の引き上げに伴い、大阪メトロや名古屋鉄道、京成電鉄の一部の駅券売機で発券ができないトラブルがあった。赤羽一嘉国土交通相が1日の閣議後記者会見で明らかにした。改修時の人為的ミスが原因で、いずれも復旧しているという。
「店内でご飲食される場合はお申し出ください」


東京都中央区の高島屋日本橋店では1日、食料品売り場のイートインで、持ち帰りと店内飲食で価格が異なることを掲示した。会計の際に、来店客に持ち帰りか店内飲食かを確認するようにした。イートインを利用した東京都文京区に住む主婦(68)は、「価格をみて2%あがったと気付いたが、数十円なので気にならない。これからも店内で食べたいときには利用する」と話していた。
千葉市のイオンの店舗では、店内で飲食する場合にカードの提示を求めている。イートインを利用した女性(69)は「税率が混在するのはややこしいが、2%の増税では感覚はそれほど変わらない。イートインの利用も買い物もこれまで通りにする」と税率の違いを気にしていない様子だった。
客足落ち込み防ぐ割引キャンペーン


牛丼チェーンの「吉野家有楽町店」(東京・千代田)は、1日10時過ぎにレジや注文を受ける端末を更新。イートインの税率を8%から10%に引き上げた。テークアウトや宅配は引き続き8%となる。吉野家は同日午前11時から、牛丼などの本体価格を10%割り引くキャンペーンを始めた。消費増税に合わせて割引を実施して、来店頻度の落ち込みを防ぐ。キャンペーン期間は15日まで。対象となるのは牛丼(並盛税別352円)、牛皿(同306円)の全サイズで、持ち帰りの場合も同様に割引となる。この日キャンペーン開始後の11時過ぎに店内で食事をした音楽関係の男性(57)は「きょうは増税を覚悟してきたが、キャンペーンで安かった。ほぼ毎日利用するので嬉しい」と話した。
ダイエーは1日からアプリ会員を対象に支払額を3%割り引くキャンペーンを開始した。同社が運営する千葉県松戸市の「イオンフードスタイル新松戸店」を利用した40代主婦は「消費増税後の出費の調整は食料品と衣料品で考えている。1円でも安く購入したいので、毎回3%オフになるのは非常にうれしい」とほほ笑む。ダイエーの伊藤秀樹執行役員は「2014年4月実施の増税初日は店内ががらがらだった。それと比べると、今回は食品売り場の来店客数は変わらない。軽減税率の効果は大きい」と説明していた。
店内10%持ち帰り8%、看板で説明

カフェチェーン運営のタリーズコーヒージャパンは10月1日から店内飲食は10%、持ち帰りは8%の税率で商品の提供を始めた。東京都中央区のタリーズコーヒーの店舗では「イートインを普段利用する常連客で、きょうから持ち帰りに切り替えた利用者はいなかった」(同社の前田暁人ディストリクトマネジャー)という。持ち帰りを利用したエネルギー関連会社に勤務する女性(35)は「軽減税率の対象かどうかは特に気にしていない」と話した。店内を利用したコンサルタントの男性(46)は「特に(テークアウトとの)2%の差は大きいとは感じない。混乱もしなかった」と話した。
「店内と持ち帰り、当店では同額です」


24時間営業の「マクドナルド西新宿店」(東京・新宿)では、1日午前5時の朝食メニュー投入時に税率を切り替え、レジの前にも一斉に告知文を掲示した。1時間で十数人の来店客があったものの、大きな混乱はなく、会計は通常通りスムーズに進んだ。日本マクドナルドでは、税率の異なる店内、持ち帰りでも税込み価格を同額になるように本体価格を調整している。「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」も店内飲食も持ち帰りでも税込み価格をそろえる対応をとった。主力商品は税込み価格を据え置き、一部メニューの価格を10~20円引き上げている。東京ドームシティラクーア(東京・文京)内にある店舗では午前10時の開店に向け朝から準備に追われ、カウンターの上にあるメニューボードや店内ポスターを新メニューに入れ替えた。
支払額がわかるよう税込み価格を大きく

家電量販店大手ビックカメラでは10月1日から、税抜き価格より税込み価格を大きく見せる表示に切り替えている。これまでは税抜き価格を大きくしていたが「支払金額がより利用客に分かりやすいようにする狙い」(同社)だという。
有楽町店(東京・千代田)では10時開店の1~2時間前から手作業で値札の付け替え作業を始めた。地下1階にある白物家電売り場の浅井裕司主任は「3日である程度まで変え、1週間で店内全商品の張り替えを完了させる」と話す。
レシートにキャッシュレス還元額

コンビニエンスストアでは1日午前0時から、キャッシュレス決済に伴うポイント還元が始まった。セブン―イレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップなど大手4社はフランチャイズチェーン(FC)加盟店などで2%分をその場で支払額から差し引く形で実施する。
東京都品川区の「ローソン大井店」では、還元の実施を伝えるポスターやステッカーを掲示した。同店は直営店で政府によるキャッシュレス還元事業の補助金の対象外。だが、ローソンは混乱を避けるため自社負担で直営店でも実施する。レシートにもキャッシュレス還元の対象額や還元額が記載されるようになった。
券売機の運賃表張り替え

JR新宿駅南口では1日の終電後、午前1時20分から運賃表の張り替え作業を始めた。事前に運賃表のパネル自体は10%の価格のものに変えてあり、パネルの上に貼っていた8%の運賃表のシールをはがすだけで作業は済んだ。1日の始発から10%の運賃が適用される。新宿駅では計9カ所について13人体制で始発までに作業を終える予定だ。
山手線の終電で新宿駅から出てきた横浜市の会社に勤める男性(24)は「インフラが値上がりするのはしかたがない」と理解を示した一方、増税前に定期券を買い忘れたため「会社に説明しないと」と話しながら家路についた。
デニーズ、早め閉店で切り替え対応

ファミリーレストラン「デニーズ東銀座店」(東京・中央)は通常、24時間営業だが、1日は午前0時から午前7時まで閉店。この間、システム更新に不具合がないかなどを確認する。9月30日夜は来店客に「1日の0時閉店ですがよろしいですか」と従業員が声をかけた。午後10時半頃に来店した20代の女性5人組は「早く閉まるとは知らなかった」と驚き顔。食事を終えると飲み物を片手に閉店間際までおしゃべりを楽しんだ。0時を過ぎすべての客が退店した後には、従業員がレジの確認やメニューの切り替えなど作業に追われた。
増税後もギョーザの値段据え置き

ラーメン店「日高屋」は10月1日に日付が変わると同時に、肉を増量するなどリニューアルしたギョーザを振る舞うイベントを東京都中央区の店舗で実施した。ギョーザは9月まで税込み230円で販売していたが、増税後も値段を据え置き、実質値下げとなる。10月末までは170円で販売し、増税後の消費の冷え込みを抑える。イベントに来た都内の外資系企業で働く女性(35)は「増税後も(ギョーザの)値段が変わらないので来店したくなる」と話した。
税率異なる「みりん」と「料理酒」

東京・品川のローソンの店舗。9月30日午後から店頭で値札を貼り替える作業が進んだ。ローソンでは軽減税率対象品の値札の値段の左側に「軽」の表示がある。酒税法上の酒類に分類されている「みりん」は軽減税率対象外で税率は10%。その隣には、塩が加えられて酒類の分類から外れた軽減税率対象の「料理酒」が並んでいた。
軽減対象外の化粧品「5割近く販売増」

ドラッグストア大手のココカラファインでは29日までの1週間の売り上げが前週比4割伸びた。軽減税率の対象ではない化粧品関連が5割近く増え、消耗品を買いだめする人が多かったようだ。大森店(東京・大田)でティッシュペーパーなどを購入した50代の男性は「何が8%で何が10%なのか制度自体分かりにくいが、紙類は10%になると聞いてひとまず来た」と話した。同店では「25日ごろから来店がぐっと増えた。前年比3倍の日もあった」(田名部平店長)という。
有機ELテレビ、9月は前年比4倍売れる

9月30日のビックカメラ有楽町店(東京・千代田)では午前中から大型家電売り場を中心に製品を見て回る来店客の姿が目立った。「月曜午前は通常お客様が少ないが、朝から相談カウンターを目指して来る方が多かった」(同店)という。9月1日から29日までで、有機ELテレビの販売は前年同期比4倍、冷蔵庫・洗濯機・エアコンが約2倍で推移するなど、駆け込み消費が目立った。
定期券「お得な8%のうちに」

JR新宿駅南口のみどりの窓口では、10月以降の定期券を購入する人などで長蛇の列ができた。定期券は9月30日までに購入すれば、10月以降も8%の価格で乗れる。通学定期を購入した18歳女性は、「ちょうど定期が切れるタイミングだったし、8%で買えた方がお得なので今日のうちに更新した」と話した。
一方で5年前の増税時と比べると、混雑は少ないという。JR東日本では「利用開始の14日前から定期券を買えることを周知するなど、早めの購入を呼びかけたため購入日が分散したようだ」とみる。
ペットフードは税率10%、知らない人も?

東京・板橋の低価格ストアのビッグ・エー板橋大山店ではペットフードの9月の売れ行きが想定だけでなく前年実績も下回った。三浦弘社長は「ペットフードが税率が10%になることを知らない消費者もいたかもしれない」と話していた。
通常は24時間営業の同店だが、値札の入れ替えやレジシステムの動作確認のため30日午後10時から10月1日午前9時まで臨時休業する。
値札交換「明日朝までに間に合うだろうか」

東京・葛飾の青戸銀座でアパレル店「ファミリーファッションタニグチ」を営む谷口信雄さんは、「30日の朝から値札の交換を始めた」。これまでは税込価格を表示していたが、増税を契機に税別表記に切り替えるという。店内には約1000点の商品が並び、営業時間の合間に作業をしているが「明日朝までに間に合うだろうか」と心配していた。東京・荒川の川の手もとまち商店街で雑貨店「朝日屋商店」を経営する80代の女性は「値札の入れ替えがとにかく大変」と話す。今回の増税について「レジを入れ替えろとか、キャッシュレスを使えという売り込みが多くてうんざりした」とこぼしていた。
指輪「117720円」→「119900円」

東京・中央の百貨店の松屋銀座店では30日夕方から税率が10%になる宝飾品や酒類の値札の入れ替えを始めた。指輪などでは作業を1~2人で担当。「30日中に作業が終わるようにして、翌日の営業に影響がないようにする」(同店)という。
ガソリンスタンド「安いうちに満タン」

東京・世田谷のガソリンスタンド。給油にきた30代男性は「明日から高くなるので、安いうちに満タンで入れたい」と話す。この店の店長は「夕方にかけての客の伸びに期待している。ただ前回の増税時よりは車両が少ない」としている。
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