堅守で理想的な試合展開(岩渕健輔)

日本は理想的な試合展開だった。アイルランドにスコアで離されずについていき、後半に運動量を生かして逆転する。
それを可能にした大きな要因は粘り強い守備。ミスや反則をせずに守り切る、一人一人の集中力は際立っていた。速い防御ラインを最後まで維持し、体格の大きい相手に食い込まれることがなかったのも良かった。「ティア1」と呼ばれる強豪国に勝つには90%以上のタックル成功率が必須だが、この日は96%。相当高い数字だ。
攻撃でもボールをしっかり保持できた。大きな相手のタックルにも負けず、我慢して前に出た。逆転トライのように、ここぞの場面でボールをしっかり確保できるスクラムの安定も大きかった。
強豪国にも負けなくなったフィジカルが、攻守の基盤を安定させている。2016年から日本が参戦したスーパーラグビー(SR)は、フィジカルやスクラムなどの強度は、代表戦並みに激しい。踏んできた場数が代表にも生きている。
SRは主審への慣れという意味でも大きかった。この日のガードナー主審は密集戦ですぐに反則を取らず、攻防をじっくり見る。SRで彼の笛を10試合ほど体験している日本の選手はその傾向を体感で知っていた。おかげでピンチでも反則なしで球出しを遅らせたし、姫野がボールを奪い返したシーンもあった。
前回大会は南アフリカ戦の担当主審のもとで試合をしたことがなかったため、大会直前に彼を日本に招待。試合で笛を吹いてもらったが、今回はその必要もなかった。
選手層の厚みも増した。前回のメンバー31人は全員が同じ力を持っていたわけではなかったが、今は誰が出ても戦える。
その結果、今大会はベンチから出た選手の活躍が目立つ。アイルランド戦では逆転トライの福岡に加え、リーチ主将も光った。相手の死角から飛び出すタックルで何度も刺さり、ボールを持っても2~3メートル前進する。次の攻撃が楽になるだけでなく、味方の士気も上がる。観客もリーチの奮闘を見て、さらに熱い声援を送ってくれていた。試合会場だけでなく、ファンゾーンやテレビで観戦いただいている方の応援は、本当に力になっていると感じる。
8強入りに前進する勝利だが、続くサモア、スコットランドも強敵で、日本には勝つという星勘定で来ているはず。日本が2戦とも負けられないという状況は変わらない。
4年前は南アに勝った後、中3日のスコットランド戦を落とし、1次リーグで敗退した。中3日の試合を事前に組んで疲労の問題には準備していたが、金星の後の高揚感にまでは対処が難しかった。
今回も選手には多くの人から祝福が寄せられているだろう。自国開催のため、テレビなどの盛り上がりも直接的に知る。平静を保って次の試合に臨めるかがカギになる。ただ、今回は中6日の準備期間がある。気持ちを整理する時間は大きなアドバンテージになる。(日本ラグビー協会専務理事、7人制男子日本代表HC)