英国映すトーマス・クック破綻 変革遅れ、政治も迷走

英EU離脱
赤川 省吾
2019/9/28 21:00
保存
共有
印刷
その他

英老舗旅行会社トーマス・クック・グループが180年近い歴史に幕を下ろした。国外旅行を庶民の娯楽として根付かせた同社の歩みは、英国近代史の浮き沈みを体現してきた。その破綻は欧州連合(EU)からの離脱で迷走し、かつての輝きを失った姿とも重なる。鉄鋼や造船など伝統的な英国産業の破綻も相次いでいる。

トーマス・クックは国外旅行を庶民の娯楽として根付かせた=ロイター

トーマス・クックは国外旅行を庶民の娯楽として根付かせた=ロイター

ジョンソン英首相の議会閉会を「違法」と最高裁が判断したのを受け、25日に論戦を始めた英議会。だが最初の議題はブレグジット(英離脱)ではなく、国外に取り残される恐れのあるトーマス・クックのツアー客をどう救済するかだった。英政府はチャーター機の手配などに追われた。同社の雇用で英国だけで9000人が職を失う危機にも直面した。

振り返れば同社は国家と栄枯盛衰をともにしてきた。創業は1841年。禁酒論者トーマス・クックが、酒に代わる娯楽として旅行を提案したのが始まりとされる。

当時は2つの追い風が吹いていた。ひとつは、いち早く産業革命を成功させ、「世界の工場」となっていた英国の経済力だ。鉄道や汽船といった新しい移動手段が次々と整備され、裕福な中産階級も育っていた。

2つ目は戦乱続きの欧州が小康状態だったこと。圧倒的な海軍力を持つ英国がにらみをきかせる「パクス・ブリタニカ(英国の平和)」で比較的安全に長距離の旅ができるようになっていた。

覇権国家である英国の経済力と軍事力を背景に「旅行」ができる環境が整うなか、トーマス・クックは割安なツアー旅行を企画した。乗り物からホテルまで全て手配してくれるという便利さ。旅の必需品である時刻表やトラベラーズチェック(旅行者用小切手)も備えた。国外旅行の敷居を下げ、19世紀に近代ツーリズムを確立した。

だが第2次大戦後は英国史と表裏一体の波乱に見舞われる。戦争直後の労働党政権下では国有化の憂き目に遭った。70年代に再び民間に戻るが2000年代に業績に陰りが出る。金融や航空機にまで事業を広げたが、英BBCによると欧州債務危機後の2011年には20億ポンド(約2600億円)の負債を抱えた。

立て直しのため、15年には中国の投資会社の復星集団を主要株主として迎えた。復星集団はこれまでも仏高級リゾートブランド「クラブメッド」やギリシャの宝飾ブランド「フォリフォリ」、カナダのサーカス劇団「シルク・ドゥ・ソレイユ」に資金を投じてきた。著名ブランドを傘下に収めることで知名度を高める戦略で、180年近い歴史をもつトーマス・クックは魅力的に映っていた。

翌16年の国民投票で英国民がEUからの離脱を選び、再び政治の嵐に見舞われる。「EU離脱に伴い旅行を手控える人が増えた」というのが今回の破綻劇におけるトーマス・クックの言い分だ。

もっともネットの普及で航空券やホテルを旅行客が手軽に予約できるようになったことも響いている。パックツアーの草分けだったが、自慢のビジネスモデルが時代遅れとなった感が否めない。

旧国営のブリティッシュ・スチールはトルコ企業による買収で合意し、タイタニック号で知られる造船所も破綻した。産業革命の母国である英国は、政治混迷と時代遅れのビジネスモデルという二重の重荷を背負っているといえる。(ロンドン=佐竹実、赤川省吾、上海=張勇祥)

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]