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元気なうちは働く 「年金は75歳から」で増す選択肢

経済コラムニスト 大江英樹

写真はイメージ=123RF

8月27日に公的年金の財政検証が厚生労働省から発表になりました。これは5年に一度実施され、公的年金の給付水準や財政状況が今後どうなりそうなのかを確認する、いわば「公的年金の健康診断」のようなものです。多くの人が誤解しているのですが、年金制度の将来を予測(Forecast)するものではなく、現状の姿を未来に投影(Projection)することで問題点や課題をみつけて議論していこうというものです。結論からいえば、今回の基本的な検証結果は前回(2014年)に比べて大きく変わるものではなく、若干改善した程度となりました。

制度変更で所得代替率アップも

報道の中には、現役男性の手取り収入に対する年金額の割合である所得代替率が約30年後に現在の61.7%から50.8%に低下するというデータだけをとらえて、年金は将来2割減になるといった記事もありましたが、これは正しい理解ではありません。9月15日付の日本経済新聞朝刊記事「年金『大幅減』に潜む誤解 実質額、代替率ほど減らず」にもあるように下がるのはあくまでも所得代替率であって、年金の実額はほぼ変わらないか、ケースによってはむしろ増える場合もあります。したがって、年金制度の先行きを過度に悲観する必要はないのですが、近い将来に年金を受給する立場になるシニア層の人にとっては、今回の財政検証で注目しておくべきところがあります。それは基本的な試算に加えて実施した「オプション試算」です。

財政検証は公的年金制度を現状のまま変えない場合、経済成長や出生率などの変化によって制度の健全性がどのように変わるかを試算するのが基本です。これに対して制度を変えた場合にどうなるのかを示すのがオプション試算です。今回は2つのオプションが示されています。

ひとつ目のオプション試算は、厚生年金の加入対象者を増やすとどうなるかというものです。現在は勤め人でも企業規模や賃金、労働時間などによっては厚生年金に入っていない人たちもいます。ところが一定の給料、具体的に言えば月5万8千円以上の全ての人を対象にすると加入者は約24%、人数にすれば1050万人が増えます。これによって所得代替率は約5%アップと大きく改善します。

さらにもう一つのオプション試算では、長く働くことで年金保険料を払う期間を長くしたり、年金の受け取り開始時期について選択肢を広げたりするとどうなるかを検討しています。実はこちらの方が影響は大きいのです。国民年金の加入期間は現在原則として60歳まで、厚生年金は70歳までです。これをそれぞれ65歳までと75歳までにして保険料の納付期間を延ばすという案です。年金の受け取り開始時期については、現在は最大70歳まで遅らせることができる仕組みですが、もう少し後にして75歳からでも受け取りを開始できるようにしたらどうかという案が示されています。これは年金が75歳からしかもらえないというわけではありません。単に受給開始時期の選択肢が広がるだけなので、働き方に合わせてより自由度が増えるということです。

もし保険料納付期間の延長と受給開始時期の繰り下げなどの制度改正が実施され、75歳まで働いて受給を開始した場合に所得代替率はどれくらいになるかの試算が財政検証で示されています。試算はいくつかあり、最も標準的とされるケース3を例にとると、驚くべきことに所得代替率は111.9%になります。つまり、長く働くということは一人ひとりの年金受給額と年金財政に与える影響がそれほど大きいのです。

働き方と年金、広がる選択肢

これと似た試算は実は前回の検証でもあったのですが、この5年の間に議論は深まりませんでした。しかしながら「働き方と年金受給額」はこれからのシニアにとっては非常に関心の高いものになるはずです。言うまでもなく、日本は人口が減少していくと考えられますから働く人を増やすことはとても重要です。したがって今まで労働市場に参加してこなかった高齢者が働くようになることは、世の中の方向性として間違っていないように思います。

シニアにとっても年金の受け取り方の選択肢が広がるのは決して悪いことではないでしょう。もちろん一人ひとりの人生観や健康状態は異なりますから、自分が元気で働けるうちは働いて、それから年金を受け取り始める時期を決めればいいのではないでしょうか。

今回の財政検証は制度改革の議論のスタート地点であり、改革の方向性についての議論はこれから盛んになるとみられます。本コラムでは今後も注目していきたいと思います。

「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は10月17日付の予定です。
大江英樹
野村証券で確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。著書に「定年3.0 50代から考えたい『その後の50年』のスマートな生き方・稼ぎ方」(日経BP)、「定年男子 定年女子 45歳から始める『金持ち老後』入門!」(同、共著)など。http://www.officelibertas.co.jp/

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