メキシコ、景気後退の危機 政府緊縮策が裏目に

2019/9/27 6:40
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メキシコのロペスオブラドール大統領=ロイター

メキシコのロペスオブラドール大統領=ロイター

【メキシコシティ=丸山修一】メキシコが景気後退の危機にひんしている。経済成長率は直近2四半期連続でプラスを達成できず、26日にはメキシコ銀行(中央銀行)が2会合連続で金利を引き下げた。2018年12月に就任した左派のロペスオブラドール政権で投資環境が混乱している上、緊縮策に固執し公共事業などを削減していることが景気をさらに押し下げている。

「これまでの大統領がやってきたぜいたくは終わりだ。我々は1450億ペソ(約7900億円)もの節約に成功した」。ロペスオブラドール氏は2日、一般教書演説で自ら進めてきた緊縮策が実を結んでいると自信を示した。

メキシコ政府が支出削減に躍起になっている。大統領専用機や公用車を廃止したほか、自身を含めた政府幹部や高級官僚の給与をカット。国会議員に与えられていた様々な手当もやめた。目に見えやすい形の支出削減策は、貧困層を中心とした支持基盤に従来政権のようなぜいたく行為は一切しない質素堅実な政権であるというアピールの色彩が強い。

同時に経済界や金融市場からの批判や懸念をそらす意図もありそうだ。主要公約である年金や奨学金の拡充、開発の遅れる南部へのインフラ投資などにばらまき批判が強い上、財政悪化への懸念が広がっていたからだ。そのため「収入以上は使わない」と宣言し、2019年予算で基礎的財政収支を国内総生産(GDP)比1%の黒字確保を約束している。

財務公債省によると今年1~7月の公的支出はペニャニエト前大統領の任期最終年度だった前年同期と比べ4.5%も減少した。もともと新政権初年度は引き継ぎの遅れなどで支出は抑えられがちだが、同時期の公的支出としては4代前のセディージョ政権以来の落ち込み率となる。

支出削減は現時点で財政規律の維持につながっているが、「副作用」もある。新空港の建設中止などによる混乱で民間投資が落ち込み経済成長が停滞する中で、本来は景気刺激の役目を果たす公的支出を絞ることで景気を下押ししているのだ。

代表例が公共事業削減に苦しむ建設業だ。1~6月の建設業生産額は前年同期比5.6%減と金融危機の影響があった09年以来の落ち込みとなった。正規雇用者数も同期間で約1万6千人も減った。メキシコ建設業会議所(CMIC)のエドゥアルド・ラミレス会長は「公共事業の大幅減少で中小を中心に事業の継続ができない企業も出てくる」と懸念する。

緊縮策の影響は経済面にとどまらない。国民生活に欠かせない医療分野では、前政権時代から慢性的な不足が叫ばれる中でさらに病院の設備や医薬品の購入が削減されている。社会保険庁(IMSS)のマルティネス長官(当時)は「こんな状態では必要な社会保障が実現できていない」と異例の批判を発表して辞任した。2年前の大地震からの復興も手つかずの地域がある。

そんな緊縮策の中で"聖域"がある。債務超過が続く国営石油会社ペメックスの救済だ。2月に約1千億ペソの財政支援を発表したのに続き、7月には3年間で総額2690億ペソの支援を打ち出した。政府からの直接の資本注入や税金減免が柱だ。ペメックスの財務にはプラスだが公共投資のような経済効果はほとんどなく、国家財政への悪影響も避けられない。

米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスでメキシコを担当するアリアネ・オルティス氏は「ペメックスに代表される政府の合理的と言えない決定が、投資家の信頼を損ねている」と批判する。すでにフィッチレーティングスが国債の格下げに踏み切ったがムーディーズも格下げの可能性を示唆する。

政府は20年予算案に関しても「緊縮策と財務規律の維持が柱」(エレラ財務公債相)としており、来年も現状方針が継続されることは確実だ。現在の経済状況から脱する手立てを模索することない現政権。景気停滞からいよいよ後退局面に入る可能性が高まりつつある。

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