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涙の末、手にした悲願 最年長初タイトルの木村新王位

悲願がついに、ついにかなった。史上最年長46歳3カ月で26日、初タイトルを勝ち取った"中年の星"木村一基新王位は、何度も何度も悔し涙をのんできた。将棋界の長い歴史で2度しかない3連勝4連敗、勝てば初タイトルとなる対局で8局連続の敗北――。「もう縁がないものと思っていたので、タイトルを意識することは正直ありませんでした」。過去の悲嘆を晴らすこの日の勝利の喜びは、察するに余りある。

 終局後のインタビューで、支えてくれた家族への思いを問われた時だった。込み上げるものを抑えきれず、木村は眼鏡を外し手拭いで目をおさえた。

「(家族への思いは)家に帰ってから言います」

忘れられない場面がある。

木村6度目の挑戦となった2016年の王位戦七番勝負。当時三冠の羽生善治王位に挑み、3勝3敗で迎えた最終第7局。木村は当時43歳。棋士の全盛期は一般に20~30代とされる。17歳の藤井聡太七段をはじめ若手も次々に台頭するなかで、「これがタイトル獲得の最後のチャンス」と本人もファンも思っていた。しかし対局が進むにつれて苦しげな表情が増える。勝負手も不発であえなく投了に追い込まれ、がっくりとうなだれた。

勝者羽生のインタビューが終わり、記者に感想を求められた時だった。「うっ」と言葉に詰まると、右手を小さく振って質問を遮り、席を外して洗面所の方へ向かった。数分後、戻ってきた木村は真っ赤に目を腫らし、ハンカチを握りしめていた。

あの涙から3年。さらに年を重ねても戦い続けた。「年齢はとってしまったから仕方ない。疲れも出るし、戸惑いつつやっていました」。それでも、脂の乗った29歳、時の名人でもある豊島将之王位を相手に、がっぷり四つで渡り合った。そしてこの日、勝って涙を流した。

飾らない人柄や大盤解説での軽妙なトークで、ファンや関係者から最も愛される棋士の一人だ。これまでの苦労を知っているから、愛情はより深くなる。対局場近くで催された大盤解説会を訪れたファン80人のうち、3分の1ほどが涙していたという。

(柏崎海一郎、山川公生)

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