「8%のままにして」取引先への圧力、公取委が監視
カウントダウン消費税10%

消費税率の引き上げに伴い、立場が弱い中小企業や個人事業主に対する顧客企業の不当要求が懸念されている。価格に増税分を上乗せ(転嫁)するのを拒み、実質的な値下げを強いるといった行為がこれまでも発覚しており、公正取引委員会は監視を強化している。
「鮮魚は8%のままなので、刺し身のトレーも8%扱いにして」。スーパーの仕入れ担当者が納入業者にこうした要求をした場合、消費税転嫁対策特別措置法に違反する疑いがある。鮮魚の納入には軽減税率の8%が適用されるが、トレーなどの包装材は10%。差額分の負担を納入業者に強いることになるためだ。
2013年施行の特措法は増税に便乗して不当に値下げさせる行為などを禁止している。公取委は13年10月~19年8月、悪質なケース54件について是正を勧告し、他に5456件で指導をした。「増税前の価格に据え置かせるケースが多い」(担当者)
9月24日には、大東建託などが物件オーナーに払う賃料に14年の増税分を反映していなかったとして再発防止を勧告した。未払い税額は過去最多の計約30億円に上った。
公取委は今回の消費増税に向けてガイドラインを改定し、軽減税率に伴う違反類型も追加。19年度、中小企業庁と共に「転嫁対策調査官(転嫁Gメン)」を約70人増員して600人体制とした。
10月から600万以上の中小企業や個人事業主を対象に書面調査を行う予定で、担当者は「大手スーパーなど取引で優位に立つ事業者への監視を強めたい」と話す。
税務上赤字の企業であっても、消費者から受け取った消費税は納付しなければならない。14年の消費増税の際に翌年度の滞納額が増加したことなどから、国税当局は今回も滞納の増加を警戒している。
毎年新たに発生する滞納の額は3500億円前後に上っている。国税OBの税理士は「納税分を確保せず、当座の運転資金として一緒に管理している中小零細企業なども多い」と指摘する。
訪日客などを対象とした免税制度を悪用し、架空の売り上げや仕入れを計上して不正に消費税の還付を受ける事案も後を絶たない。国税幹部は「国庫金の詐取ともいえる悪質な犯罪」と強調。税率引き上げで還付額も増えることになるため、摘発を強化する構えだ。
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