苦い過去 向き合う大人(演劇評)
空晴「明日の遠まわり」

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/9/27 7:00
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忘れたい過去と再び向き合わなければならない時、人はどう再生するのか。空晴の新作「明日の遠まわり」は、誰にも経験があるほろ苦い思いを喜劇的に描いた、爽快な舞台だった(8月30日、大阪市のHEP HALLで所見、岡部尚子作・演出)。

林英世(手前右)ら、俳優陣は大人たちの心理を繊細に演じた

林英世(手前右)ら、俳優陣は大人たちの心理を繊細に演じた

公園前の喫茶店を、昔の常連客・かなこ(林英世)が訪れる。若い婚約者の吉田(上瀧昇一郎)を弟(太田清伸)に紹介するため、実家近くの店で待ち合わせたのだが、そこで15年前に別れた夫(酒井高陽)と再会。弟の別れた彼女(岡部尚子)とも鉢合わせする。折しも公園で子供達(たち)が怪しい大人から叩(たた)かれる事件が起き、店の常連客も含め、彼らの中に犯人がいるという疑惑が浮上。また吉田が結婚詐欺師だと疑う者も現れる。

勘違いとすれ違いから騒動に発展する展開は、空晴定番の魅力。さらに今回は、中高年層の抱える心の問題を取り上げ、新境地の舞台に。本当は好きなのに、別れざるを得なかった人との思わぬ再会。かさぶたが剥がれるようにうずく心。子供が持てなかった女性の複雑な思いも絡めた。

半世紀以上生きていると、大抵のことに耐えられると知っている。だから大丈夫。健気(けなげ)に言って見せる大人の切なさ。そして、新たに出会った人の優しい一言で救われ、前進する様が巧妙に描かれた。

長年の心のわだかまりを、大阪弁で畳み掛けるように語り合う会話が笑いを誘う。俳優達の心理描写も緻密で、特に林英世は、年下の男との再婚に踏み切る自信が持てない女心を、的確に描写した。

また生きて行こうか。そう思える、日常の大切な瞬間を活写。空晴独自のスタイルを確立した代表作と言えよう。

(大阪芸大短期大学部教授 九鬼 葉子)

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