現代アート、神戸「巡礼」 街が舞台のイベント体験
文化の風

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/9/27 7:01
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神戸市の街中を舞台にした現代アートイベント「TRANS(トランス)-」が開かれている。出展作家はドイツのグレゴール・シュナイダーと、同市出身のやなぎみわ。あえて2人に絞ったことで、「巡礼」という共通するテーマが強いイメージを放つ。

神戸市中央卸売市場本場前に立つやなぎみわ(神戸市兵庫区)

神戸市中央卸売市場本場前に立つやなぎみわ(神戸市兵庫区)

シュナイダーは「美術館の終焉(しゅうえん)―12の道行き」と題し、市内10カ所に12作品を設置した。キリストの受難を示す「十字架の道行き」になぞらえ、巡礼するように鑑賞する趣向だ。

港近くにある市立兵庫荘は、昨年閉鎖されるまで低所得の男性が1泊50円で寝泊まりしていた。この場所を使った作品「住居の暗部」に足を踏み入れると、思わず息をのんだ。2段ベッドや布団、転がる酒瓶など空間全てが真っ黒に染められている。ライトを当て、目を凝らさないと何も見えない。我々は彼らの生活を不可視の領域に閉じ込めてきたのだろうか――。そんな思いが胸に去来する。

ひきこもり想起

「死にゆくこと、生きながらえること」と題した作品は、会期中にJR神戸駅地下の広場で高齢者の3次元データを撮影。商店街の丸五市場(長田区)で専用アプリを入れたスマートフォンをかざすと、その姿が亡霊のように現れる。たとえ命は途絶えても、デジタル空間には痕跡が残る不思議さ、不気味さが浮かぶ。

グレゴール・シュナイダーの作品「喪失」(神戸市内)

グレゴール・シュナイダーの作品「喪失」(神戸市内)

とある私邸を訪れる。場所は非公表で、ツアー参加が必要だ。動物園の獣舎のようなガラス張りの部屋に、男が寝ている。「喪失」という作品だ。鑑賞者とコミュニケーションをとることは一切なく、引きこもりの問題を想起させる。

ベネチア・ビエンナーレなどで活躍するシュナイダーにとっても、今回の展示規模は過去最大となった。「普通は入れない場所まで深掘りし、社会が抱える問題に触れるような作品ができた」と振り返る。

やなぎによる野外劇「日輪の翼」は神戸市中央卸売市場本場(兵庫区)で10月4~6日の3夜だけ上演。原作は中上健次の同名小説で、ポールダンサーやサーカスパフォーマーなどが舞う。2016年以来、京都など国内5カ所で上演した。毎回、公演場所の歴史を調べ、内容を変えて地域の人々を巻き込む。

今回は陸にステージトレーラー、海に台船を配置する"半陸半海"の舞台だ。独創的な巡礼劇は会場近くに時宗の開祖、一遍上人が入滅した寺があるのにちなみ、地域の僧侶らの踊り念仏も取り入れる。

グレゴール・シュナイダー「死にゆくこと、生きながらえること」(神戸市長田区の丸五市場)

グレゴール・シュナイダー「死にゆくこと、生きながらえること」(神戸市長田区の丸五市場)

原作は紀州・熊野の路地で暮らしていた老婦人と若者たちがトレーラーで伊勢や出羽、恐山、東京・皇居など「聖地」を巡礼していく物語だ。聖と俗、異界と現世など様々な境界を越える旅路が中上独特の「血肉を備え、切れば血が出る文体」(やなぎ)で描かれる。その濃厚な文体をパフォーマンスに置き換えた。

作者2人に絞る

「野外劇は舞台となる場所の地面をめくり、歴史を掘り起こしていく作業。どの会場でも『ここでやる運命だった』と思わされる歴史に出合った」。兵庫区はやなぎが生まれ、10代後半までを過ごした場所。熊野を出て日本中を駆ける巡礼の物語と、一遍上人の遊行が重なる今回の演出は、この場所でしかなしえない。

神戸市は07年から5回にわたり神戸ビエンナーレを開催し、17年は開港150年を記念した港都KOBE芸術祭を開いた。地域のアートイベントは多数の作家が参加する総花的な内容が多いが「予算を少数の作家に集中し、力の入った作品を作ってもらう形」(ディレクターの林寿美)を目指したのは注目に値する。次回以降は未定だが「20年、30年と続けていきたい」(同)と先を見据える。11月10日まで。

(佐藤洋輔、西原幹喜)

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