現代ジャズの才女カミラ・メサ 南米ルーツの創造性

アートレビュー
2019/9/29 6:00
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ニューヨークに10年近く住む、チリ人シンガーソングライター・ジャズギター奏者のカミラ・メサのリーダー公演をブルーノート東京で見た。舞台には当人に加え、彼女の側近奏者と4人の弦楽器奏者が並ぶ。半数以上が女性であるためか、いつものブルーノートのステージより柔和な華やかさを感じた。

南米をルーツとするメサの音楽は、独特の陽気さと物悲しさが交錯する=佐藤 拓央撮影

南米をルーツとするメサの音楽は、独特の陽気さと物悲しさが交錯する=佐藤 拓央撮影

メサは音楽好きの家庭のもと、首都のサンティアゴで育った。音楽学校を出てすぐに本国でリーダー作をリリースし、ジャズの素養を深めるためにニューヨークに移住。彼女が学んだニュースクール大学はロバート・グラスパーやホセ・ジェイムズら、今のジャズの前線を飾る逸材を輩出している。その後、彼女はシンガーであることとギタリストであることの両輪を求めて活動してきた。日本では東京JAZZを含めて2度の公演を行い、イスラエル出身の辣腕ジャズピアニスト、シャイ・マエストロと共演している。

そんな彼女の現在の要となる活動が、カミラ・メサ&ザ・ネクター・オーケストラと名乗るジャズカルテットと弦楽四重奏団を重ねた変則編成のプロジェクトで、今回の公演はその全貌を披露するものとなった。ちなみに2019年の新作「アンバー」は、米国ではメジャーのソニー/マスターワークスからのリリース(日本はコアポート)。その事実からも、彼女が米国の音楽界で注視されているのが分かる。

自作曲からブラジル音楽界の大家であるミルトン・ナシメントのポルトガル語曲「ミラグリ・ドス・ペイシェス」まで、ライブは新作の曲を柱に進められた。それらはすべてヴォーカルナンバーで、透明感のなかにしなやかさが息づく歌唱が、一筋縄ではいかないメロディとともに聴く者にしっかりと入り込む。そして、どの曲においても彼女は流麗なギターソロ――それは、現代ジャズギター表現の要点を押さえたものといえる――を取るのだから、これは刮目(かつもく)するとともに誘われずにはいられない。

カルテットと弦楽四重奏の変則編成の伴奏が、メサの歌をより輝かせた=佐藤 拓央撮影

カルテットと弦楽四重奏の変則編成の伴奏が、メサの歌をより輝かせた=佐藤 拓央撮影

彼女を自在に振る舞わせる、キーボード・ピアノ奏者のエデン・ラディンとダブルベースのノーム・ウィーゼンバーグはともに在ニューヨークのイスラエル人だ。そして、ドラマーはやはりニューヨークに住む小川慶太。「アンバー」の録音にも参加している彼らは、ジャズのたしなみを根に置きつつも幅広いジャンルで演奏してきた。この日の舞台でも、この経験を生かした魅惑の伴奏が展開され、特筆に値した。とくに、スナーキー・パピーのメンバーである小川のブラジリアンビートなどを介するドラミングは、まさに唯一無二の聴き味を持っていて、目を引く。そうした技ありの演奏は、世界各地から大志を持った逸材を引き寄せるニューヨークという街の魔法もおおいに示唆していたはずだ。

今回、弦楽四重奏団は日本で集められた。ウィーゼンバーグが弦アレンジを担当し、優美かつスリリングに楽曲の襞(ひだ)を広げるストリングスの調べをつくっていたが、この難易度の高い任務を日本人奏者たちがしっかりこなしていたことも指摘しておきたい。

また、メサは1曲だけ、50年代に発表されたメキシコの有名曲「ククルクク・パロマ」を1人で披露した。ハリー・ベラフォンテやカエターノ・ヴェローゾら様々な逸材が取り上げてきた、その憂愁に満ちた歌は受け手を別の世界へと連れていく、と書いてしまうと大げさか。だが、この曲をはじめスペイン語歌詞の曲を中心に歌っていく彼女の実演は、南米出身者としての自負やそれゆえの創造性を十全に浮き上がらせる。

言語は英語だけでなく、アメリカ大陸は北米だけではない。メサがそんな事実を悠然と差し出ていたのは疑いがない。そして、かような意思が洗練と視野の広さを存分に抱える音楽性を介して表出されていたことに頷(うなず)かずにはいられなかった。自らの素性とユニバーサルな価値観のダイナミックな綱引きこそが、現代のポピュラー音楽の重要な鍵の一つであることを、彼女のパフォーマンスは語っていた。9日、ブルーノート東京。

(音楽評論家 佐藤 英輔)

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