使い勝手でプロ魅了 台所番長が選ぶチタン製料理道具
合羽橋の台所番長が料理道具を徹底比較

合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏がイマドキの調理道具を徹底比較。今回は、プロの料理人はもちろん、料理好きな人の間で話題のチタン製の調理道具を紹介する。
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こんにちは、飯田結太です。調理道具には、鍋や包丁など、金属製品がたくさんあります。最も知られているのは鉄製。ほかに銅やステンレス、アルミニウムなどがありますが、ここ数年でジワジワと注目されてきたのが、金属の中でも高額なチタン製のもの。
なぜ注目度が高まってきたのかというと、理由は4つ。
とにかく軽いこと。鉄の3分の2ほどの重量しかありません。毎日使うものだからこそ、軽さを求めるプロが増えてきたようです。2つめは、さびにくいこと。船の装甲板や橋の脚など、海に関する建造物や乗り物の素材としても使われているほど、とびぬけてさびにくいのです。3つめは硬さ。鉄の2倍、アルミニウムの3倍の強度があります。そして、4つめは、安全性が高いこと。抗菌力があり、有毒性がないので、金属アレルギーを持つ人でも使うことができます。
今までは、硬いので加工がしにくいことから、メーカーにとって扱いにくい素材で、高額なためあまり人気もありませんでした。それが一変して注目度が高まったのは、高齢化にも関係があるように思います。
もともと、中華の料理人は、鉄の大きな中華鍋を毎日振っていると手や腕を痛めてしまうことが多く、鍋の軽量化は死活問題でした。そこで、軽いチタン製の鍋に変えていったことから広がったのだとか。
家庭用としても高齢の方には軽いほうが楽に使えます。鉄製と同様に、チタン製も丈夫で長く使えるので、高額でも購入する人が増えていきました。
では、私が注目しているチタン製の調理道具を紹介します。
セレクトショップで人気、才色兼備なしょうゆ差し

金属製のしょうゆ差しはあまり見かけないものでした。しょうゆは塩分が多く、金属の中ではさびにくいといわれているアルミニウムやステンレスの容器でもすぐにさびてしまうからです。しかし、チタンならほぼさびません。
「鮮彩」は、外側がステンレス、内側がチタンの二重構造。底はウッドで作られていてデザインがおしゃれ。さらに、しょうゆを酸化しにくくするために、コルク製の浮く内ブタがあります。これによってしょうゆが減っても空気が入りにくくなっているのです。
これを製作したプリンス工業は、新潟県三条市にある会社。業界ではあまりやりたがらないようなことにも、社長が先陣を切って積極的に取り組む会社で、チタン製のしょうゆ差しもそのひとつ。社長いわく「スーパーで見かける密閉ボトルだと味気ないから、食卓においてもカッコよく、機能もしっかりしているしょうゆ差しを作ろう」と思ったのだそうです。しょうゆ差しとは思えない価格ですが、有名なセレクトショップで販売するなど人気があります。
信じられない薄さ、ごはんもさっとよそえるしゃもじ

これは、異物混入や金属アレルギーなどの問題に敏感な学校給食の場で、子供たちにも安心して使えるように開発された、しゃもじなんです。
ヘラ部分は、皿のような形状ですくいやすく、表面の凸凹はごはんがくっつかないようにするためのデザイン。大変薄いのも特徴のひとつ。プラスチック製だと、あまり薄すぎると熱でしゃもじが変形してしまうことがありますが、これはチタン製なので高温でも変形しません。だから、熱湯消毒もできます。
さらに、凸凹の上にフッ素加工が施してあるので、ご飯がつるっと落ちやすいんです。継ぎ目がない一体成型なので洗いやすくて衛生的。使い終わった後に水にしばらくつけておいても問題なく、すし飯でもさびることなく安心して使えるなど、すぐれもの。最近は学校給食の場だけではなく、遠方からわざわざ買いに来る人もいるほど注目されています。
10年使える、チタン刃のピーラー&スライサー

チタンとセラミック製品を得意とする会社、フォーエバーの製品。刃の部分がチタンになっています。「10年間さびない」ということをうたい文句にしていて、もしさびたら無料交換するサービス付き。それくらい自信があるようです。
数あるピーラーやスライサーの中で、切れ味がずばぬけて良いというわけではありませんが、チタンを刃に使用し、抗菌性にしているのは、私が知る限りこれだけです。チタン製品に強い会社ならではの可能性を感じます。現在のものはデザイン性がいまいちですが、将来はいろいろ改良されていくのではないでしょうか。これからどんな製品が出てくるのか期待しています。個人的には、オールチタン製もほしいですね。
チタン製品が注目されるきっかけになった中華鍋

料理のプロのなかで、もっとも鍋の重さに対して改良してほしいと思っていたのが、中華料理人ではないでしょうか。中華鍋は振りながら調理するもの。特にチャーハンや炒め物はスピード勝負です。一般的な中華鍋は鉄製のため、重さもそれなりにあり、手首や腕を痛める人も多かったのです。さらに、料理人の高齢化、女性の進出が盛んになってきたこともあり、鍋の軽量化が望まれていたようです。
そこに登場したのが、チタン製の中華鍋です。今では、中華料理人でこの鍋を知らない人はいないほどの人気商品で、飯田屋にも日本全国から問い合わせがきます。
しかし、チタン製の鍋には大きなデメリットがあります。チタンは熱伝導率が悪い金属。熱を蓄えておく力や、熱伝導率は鉄のほうが格段に良いのです。チタンの場合、火が当たっている部分の熱は急激に上昇するのですが、その周りに熱が伝わるのは時間がかかります。つまり、火が当たっているところの食材だけすぐに加熱されてしまうので、テクニックが必要になってくるのです。対策としては、常にかきまぜていること。
例えば、チャーハンをチタン鍋で作る場合は、軽量なので振るのは簡単ですが、鍋を振りながら、食材を常にかき混ぜていないと、パラパラのおいしいチャーハンはできません。鉄の中華鍋と同じ感覚で調理すると失敗すると思います。なれるまでは少し時間が必要かもしれません。でも、そんなデメリットがあるのにこの中華鍋は売れています。それだけ軽さが重要だということですね。料理の腕に自信がある方はぜひ挑戦してみてください。
時短で焼き料理が完成するチタン製フライパン

チタン製の鍋は、熱の伝導率は悪いのですが、火が当たっている部分は急速に加熱されるという特性があります。それをメリットとして活用したのが、フライパンです。
急速に加熱されるので、焼き料理なら、短い時間で出来上がります。注意したいのは、火が当たっている中心部分に食材を置くこと。そして、急速に加熱されて熱が上がりすぎてしまうので、天ぷらや揚げ物には使えません。空だきも禁止など、一般的な鉄のフライパンと同じ感覚で使用すると危険なことがあります。火加減は中火が最適。もし数枚のフライパンを持っているなら、焼き物はチタン製で調理し、揚げ物などは別の鍋を使うなど、使い分けるといいでしょう。
何かと注意が必要ですが、チタン製鍋ならではのメリットもたくさんあります。鉄フライパンのように、油慣らしがいらないこと、洗剤でゴシゴシ洗えるので清潔に保てること、そして、鉄のように匂いがなく、ほぼ無臭なので、食材本来の味を生かせることです。
チタンはまだまだ高額ですが、軽量なのが一番の特徴。高齢化社会に最適の素材なので、今後は量産されていく可能性もあります。もっと求めやすい価格になったら、面白い商品も登場すると思います。今後期待したい素材です。(談)
(文 広瀬敬代、写真 菊池くらげ)
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