「老後も資産運用を」ローウィー氏(投信観測所)
長生きしてもお金に困らないようにするにはどうしたらいいか、現役世代から退職世代まで幅広く関心が高まっている。退職時期などの目標年に向けて自動的に資産配分を変える「TDF(ターゲット・デート・ファンド)」が普及している米国の資産形成事情について、米大手運用会社アライアンス・バーンスタインでマルチアセット・ソリューション部門の最高投資責任者(CIO)を務めるダニエル・ローウィー氏に話を聞いた。
――米国では若い人でも老後に備える意識が強いですか?

「残念ながら、そうでもありません。退職が近づいてようやく老後のことを考え始めるのが普通で、若いうちはどうしても就職のことや学生ローンの返済、住宅購入、家族の生活費のやりくりなどに関心が奪われがちです。若い世代にとって計画的な貯蓄が難しいのは、とても自然なこと。米国も日本と大きな違いはありません。重要なのは、個人が長期で無理なく資産形成できる社会の仕組みをつくることです。米国では若い世代が意識せずに運用できる確定拠出年金(DC)の制度が整っています」
――米国は年金制度が充実しているイメージがあります。
「十分とは言えませんが、改善はしてきました。最も重要な変化をもたらしたのは、2006年の年金保護法施行です。企業型DCの加入者が運用商品を自分で指定しなかった場合に自動で割り当てるデフォルト商品の選択肢にTDFなどが加わりました。それまでは利息がほとんど付かない預金を選ぶか、新興国株や自社株などに集中投資してリスクを取り過ぎるかの両極端でした」
――DCではどんな商品が選ばれていますか。
「TDFが最も一般的で、デフォルト商品の8割以上を占めています。その結果、新規の掛け金のうち約6割がTDFに向かっています。その他はバランス型ファンドや、加入者ごとにカスタマイズする『マネージド・アカウント』などがあります。TDFは加入者が若いうちに株式などリスクの高い資産を多く組み入れ、退職時期が近づくと保守的な運用に自動で切り替えていくファンドで、この10年で急拡大しました。最近は商品設計の改良や資産配分の見直しなど、イノベーションを取り入れて運用成績を向上させるための研究が進んでいます」
「それほど意識しなくても若い人がしっかり資産運用ができているという点で、米国は日本より進んでいるかもしれません。しかし米国でも取り組むべき課題があります。安心して長寿を全うできるように、どうやって人生の最期まで資産を長持ちさせるかということです。焦点になっているのは、退職後も資産運用を続けながら、効率よく引き出していける仕組みづくりです」
――解決策はありますか。
「そのための金融商品がいくつか開発されています。1つは老後もしっかり運用するタイプのTDFです。仮に95歳まで生きるとすると、65歳で退職した人はまだ30年も人生が続きます。退職などの目標年に向けてリスク資産をほぼゼロにするTDFもありますが、65歳以降もある程度のリスクを取って運用を続けるTDFなら、長生きによってお金を使い果たしてしまうリスクを減らすことができます。このタイプのTDFに保証を付けて終身で一定額の給付を提供する新商品もありますし、分配金を定期的に支払うインカム型のマルチアセット(複数資産)ファンドに投資して、年金だけでは足りない分の生活費をまかなうやり方もあります」
――日本人へのアドバイスをお願いします。
「いくら若くても、資産形成を始めるのに早すぎることはありません。『リスク』として意識すべきなのは、投資で短期的に資産が目減りするかどうかではなく、退職までに十分な老後資金をためられないことです。そのリスクを避けるためには、投資を長く続ける必要があります」
「退職世代も例外ではありません。長寿化に伴い、退職してからの人生は確実に延びています。現実を直視し、資産を使い果たしてからも生き続けてしまう最悪の事態を認識すべきです。そうならないためにも、一定割合の株式を資産に組み入れることがどの世代にとっても重要です。そうすることで生涯にわたって十分な購買力が確保され、長寿リスクにも対応できると考えられます」
(QUICK資産運用研究所 西田玲子)