万博、産学つなぐ夢 京都・大阪・神戸3大学シンポ
関西経済人・エコノミスト会議

2025年 万博
大学
2019/9/24 6:00
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日本経済新聞社と日本経済研究センターが主催する「関西経済人・エコノミスト会議」は9月4日、「関西から創る未来社会~万博に向けて」をテーマに大阪市内でシンポジウムを開いた。京都大学の山極寿一総長、大阪大学の西尾章治郎総長、神戸大学の武田広学長、産業界から関西経済同友会の深野弘行代表幹事、スタートアップ企業のクロスエフェクト(京都市)の竹田正俊社長が出席。関西発の価値創造の意義などについて議論した。司会は日本経済新聞社大阪本社編集局長・渡辺園子。(文中敬称略)

討論する(左から)京都大学の山極総長、大阪大学の西尾総長、神戸大学の武田学長、関西経済同友会の深野代表幹事、クロスエフェクトの竹田社長

討論する(左から)京都大学の山極総長、大阪大学の西尾総長、神戸大学の武田学長、関西経済同友会の深野代表幹事、クロスエフェクトの竹田社長

■山極氏 日本人の体験共有

司会 2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の魅力を高めるにはどうしたらいいか。

京都大学総長 山極寿一氏(やまぎわ・じゅいち)1952年生まれ。80年京都大学大学院理学研究科博士後期課程研究指導認定退学。理学博士。京大教授などを経て、2014年から現職。

京都大学総長 山極寿一氏(やまぎわ・じゅいち)1952年生まれ。80年京都大学大学院理学研究科博士後期課程研究指導認定退学。理学博士。京大教授などを経て、2014年から現職。

山極 日本人の伝統的な発想と科学技術を組み合わせてはどうか。残念ながら日本の科学技術はもう世界トップではない。技術だけでは大阪・関西の良さが出ないだろう。世界にない日本全体や地域の文化の本質を演出すべきだ。若者の立場に立てば、個人の体験と共有がキーワードだ。個人的な体験を世界の人たちとどう共有するかに核心があると思う。

格別な体験をどういう形で見せるか。日本人が当たり前と思っていることにヒントが隠されている。例えば大阪の語りの文化だ。落語や文楽も入る。これがいかに日常生活に根付いているかを世界各国と比較する。言語や思想などが分断している時代であり、生活に溶け込む日本文化と世界とをつなぐことができれば、新時代の万博になる。

司会 どうしたら会場の夢洲まで足を運んでもらえるか。

西尾 夢洲に来てもらうには、その場所に行かなければ体験できない、感動や臨場感が味わえないものをつくる。今回の万博は命がテーマ。例えば「万博に1回行けば健康寿命が1年延びる」というキャッチコピーのようなものがつくれないか。体や心がリフレッシュできる場をつくれば、みんな行くだろう。1970年の大阪万博はモノの展示だったが、今回は空間やデザインでの演出が重要になる。

深野 前回と大きく違うのは情報技術の発達で会場に行かなくても何をやっているか消費者が分かることだ。世界に内容の情報発信をする一方、会場に行けばもっと面白いという仕掛けづくりが大事になる。例えばバーチャルライブはどうか。そこから切り口を変えて文化を紹介する。来場者に初めての経験をさせることができれば魅力的といえる。

竹田 体験型というのは皆さん分かっていると思う。恐らく今の若い世代はよほどのことがない限り、会場には足を運ばないだろう。インターネットで情報が簡単に手に入り、情報過多だからだ。例えばスポーツや音楽などのライブ感と一体感はネットでは味わえない。何か思いきった仕掛けが必要になる。

司会 参加型万博の場合、課題はあるか。

武田 外国人にとって日本は依然と言葉の壁が高いが、最近は自動通訳機「ポケトーク」などが登場している。日本人や外国人にとって自国の言葉で他の国の人とコミュニケーションが取れるのは大きな経験になるのではないか。

■西尾氏 データ規制遺産に

司会 恐らく個人情報の扱いが課題になる。万博のレガシー(遺産)の一つがデータなら、どう解決するか。

大阪大学総長 西尾章治郎氏(にしお・しょうじろう)1951年生まれ。80年京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。工学博士。大阪大学教授などを経て、2015年から現職。

大阪大学総長 西尾章治郎氏(にしお・しょうじろう)1951年生まれ。80年京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。工学博士。大阪大学教授などを経て、2015年から現職。

西尾 万博を通じて「ソサエティ5.0」や、国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現を目指すことになる。提供データは誰のものか。人工知能(AI)の深層学習では外からはどのような計算がされているか一切見えない。このようなAI技術を利用する場合、決定プロセスが分からないブラックボックスでは倫理的な問題が出てくる。

これらの課題に対して日本は一刻も早く独自の規制を構築しないと現場が混乱しかねない。万博のレガシーとしてデータの扱いについても盛り込めないか、今から議論しないといけない。

武田 情報技術の発達で自分の脳のデータをダウンロードしてコピーできるようになれば、事実上の不老不死になる。この可能性をどう受け止めるべきか考えなくてはいけない。

■武田氏 営業努力足りない

司会 大学に対して深野氏から研究情報の発信、企業との橋渡し機能の強化、キャンパスの有効活用という3つの要望があった。

神戸大学学長 武田広氏(たけだ・ひろし)1949年生まれ。78年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。神戸大学教授などを経て、2015年から現職。

神戸大学学長 武田広氏(たけだ・ひろし)1949年生まれ。78年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。神戸大学教授などを経て、2015年から現職。

武田 法人化する前の国立大学の名残があり、情報発信に消極的だったところを改善していきたい。企業との橋渡しではなかなか成果が出てこなかった。営業力が弱く、現場に行って営業する努力が足りなかったと思う。組織改革で研究成果などの情報発進に力を入れる。神戸のポートアイランドには医療系の研究施設が集まり、イノベーションアイランドとして目玉になるだろう。

西尾 阪大は4、5年先にイノベーションを起こすということを目標に、企業と一緒になって対等な立場で研究を進めている。学内全体で約100社が入居し、阪大の研究者と共に技術のブレークスルーを目指している。産業構造が大きく変わるなか、企業は今後どういうサービスを提供したらいいか判断が難しい。大学が企業と一緒に今後何をすべきか見定め、基礎段階から取り組んでいく。社会実装して新たな課題が見つかったら、また基礎から取り組むというサイクルを回すことが大事だ。

司会 京大は技術の目利き役として外部人材を登用している。そういった動きは増えるのか。

山極 企業は利益につながる価値を見つけ出すことにたけているが、それが将来個人の生き方にどう関わっていくかに関する知識がない。総合大学の良いところはどう未来を輝かせるか哲学や歴史学などから考えられることだ。構造やシステムばかりをつくっても人間はそれを構成する一つの要素ではない。一人一人が命を輝かせなくてはいけない。人間の幸福とは何なのか。幅を広げて考えないと未来の価値は生まれない。人間の幸福について、今から考えないと、先行した技術に人間が引きずられてしまい、かえって不幸になるのではないか。

■竹田氏 仮想とリアル融合

司会 スタートアップとしてどう万博に関わっていくか。

クロスエフェクト社長 竹田正俊氏(たけだ・まさとし)1973年生まれ、96年立命館大学経済学部卒。米国留学を経て、2000年クロスエフェクト創業。11年京都試作ネット代表理事。

クロスエフェクト社長 竹田正俊氏(たけだ・まさとし)1973年生まれ、96年立命館大学経済学部卒。米国留学を経て、2000年クロスエフェクト創業。11年京都試作ネット代表理事。

竹田 自分たちの持っている技術をいかに社会実装するかに注力している。万博開催後は仮想現実(VR)のような技術がもっと進化するだろう。バーチャルな技術と実際の体験を掛け合わせた製品を数年先につくりたい。その時は大学との産学連携で生み出せればと思う。

司会 深野氏はどう受け止めているか。30年はSDGsの達成年だが、大学、スタートアップも含めてどうアピールができるか。

深野 社会実装についてはかなり動き出しているなと感じた。掛け合わせは大事だが、日本の社会は掛け合わせが不得意な面もある。社会の多くが縦割りであり、その壁を取っ払うことが大事だ。大学も学部学科を考えずに、課題を見つけたら文理関係なく取り組めるというものが増えてくると効果が大きい。

SDGsは万博を機に汎用的なシステムをつくれたらよいと思う。大手企業や大学、スタートアップらによるオープンイノベーションで課題を解決する。それを関西発、万博発で広げていきたい。データに関する法的整備も課題であり、集めた情報を一括管理する情報銀行が必要になる。

山極 リアル空間とバーチャル空間を融合する時代が来ると思うが、大学の使命はあくまで人材育成だ。人間がAIなどを使って効率化を進めるのはよいが、逆にシステムの中に人間を当てはめると、人間が一つの製品になってしまう。人間は均質であってはならない。大学は個人の多様性を認める人材を育てないといけない。

■問題提起・技術革新土台作りを 関西経済同友会代表幹事 深野弘之氏

関西経済同友会代表幹事 深野弘行氏(ふかの・ひろゆき)1957年生まれ。79年慶応義塾大学経済学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。特許庁長官などを歴任、2013年伊藤忠商事入社。19年専務理事。同年から現職。

関西経済同友会代表幹事 深野弘行氏(ふかの・ひろゆき)1957年生まれ。79年慶応義塾大学経済学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。特許庁長官などを歴任、2013年伊藤忠商事入社。19年専務理事。同年から現職。

関西経済同友会で、スタートアップがイノベーション(技術革新)を起こすための環境づくりを議論してきた。その最中に2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の開催が決定した。万博というチャンスを生かすために、大学は大きな役割を果たすべき存在だ。

1970年の大阪万博は経済成長や科学技術を誇る「国威発揚型」だった。25年万博は「課題解決型」だ。日本は世界で最も早く超高齢化社会に向かっている。こうした課題にどう対応するかを見たい、一緒にやってみたいと期待されている。

課題の中からイノベーションは起こる。イスラエルでは貧困問題を抱える地域で、VR(仮想現実)を使った教育に取り組んでいる。課題が多いほどイノベーションが進むという意味で、25年万博は大きなチャンスだ。

関西ではスタートアップのネットワークが立ち上がり、関連する活動も活発になってきた。もう一段の発展のために、関西経済同友会は4月に提言をした。世界のスタートアップが活動しやすい環境づくりや、関西の競争力を伝える情報発信などを求める内容だ。大学は一つの基盤、中心の役割を果たすと考えている。

大学に向けた提言は3点ある。まずは研究活動の見える化だ。テクニオン・イスラエル工科大学は訪問者向けセンターで研究結果などを展示し、共同研究や資金支援といった成果につなげている。

次に研究成果の民間企業への橋渡しだ。日本の大学は営業活動が十分とは言いがたい。英国のケンブリッジ大学では独立組織が研究成果を外部に切り離して会社をつくり、大学の周りに集積ができている。

最後は立地の有効活用だ。キャンパスの中は民間企業からみた魅力が高い。大学施設をPFI(民間資金を活用した社会資本整備)で整備したり、コンセッション方式で運営を民間に任せたりする方法もあるだろう。

この3点を通じ、地域のイノベーション環境を強化してほしい。イノベーションやスタートアップのエコシステム(生態系)は多様な大学や研究機関、企業の拠点が立地している姿が理想的だ。その意味で関西のポテンシャルは高く、万博を通じて生かしていきたい。

イノベーションは大企業の自前主義から外部の技術やアイデアを取り入れる「オープンイノベーション」に変わってきた。万博を機にオープンイノベーションの場が併設され、レガシー(遺産)になるのが望ましい。

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