ギグワーカーに安全網、ウーバー運転手は従業員

スタートアップ
2019/9/19 19:49
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【シリコンバレー=佐藤浩実、白石武志】米カリフォルニア州で18日、独立事業主の定義を厳しくする新法が成立した。米ウーバーテクノロジーズなどのライドシェアは運転手の一部を「従業員」として扱うようになり、最低賃金の保証など追加の費用負担を迫られる。ネットで単発の仕事を請け負うギグワーカーには安全網が整備される一方で自由な働き方が奪われる懸念も広がる。

カリフォルニア州で成立した新法により、ウーバーやリフトは運転手を「従業員」として扱わなければならなくなる見込みだ(写真は新法成立を求めていた活動家ら)=AP

法律は2020年1月に発効となる。コスト削減のために産業界で横行する労働者の誤った分類にメスを入れ、働き手を守る狙いだ。

新法は独立事業主の条件を(1)会社の管理・監督下にないこと(2)会社の通常業務の範囲外の仕事をしていること(3)同じ業界で独立した事業を手掛けていることと定める。

3条件すべてを証明できない限り、雇い主となる企業は労働者を従業員として扱う。企業は最低賃金の保証のほか失業や病欠時の保険の手当などをしなくてはならない。

最も影響を受けるとみられるのが、ギグエコノミーの企業やその仕事を請け負う人々だ。米労働統計局によれば、米国のフリーランスは全就業者の6.9%にあたる1060万人にのぼる。

ギグエコノミーの代表格の企業はライドシェア大手のウーバーとリフトだ。スマートフォンのアプリを介して一般の運転手と乗客をマッチングするサービスで、現在は運転手を独立事業主としている。

しかし大学教授らから「(ウーバーなどの運転手は)アルゴリズムによって従業員のように管理されている」との声が出ていた。

従業員として扱うと、企業の負担が生じる。英バークレイズはカリフォルニア州でライドシェアの運転手を従業員として扱った場合、社会保障税などで1人当たり年3625ドル(約39万円)の追加費用がかかると試算する。ウーバーは同州で14万人、リフトは8万人の運転手を抱えるとされ、単純計算でそれぞれ年に5億ドル、2億9000万ドルが追加費用となる。

米モルガン・スタンレーもウーバーでは運転手に関わる費用が35%上昇すると予想する。運賃にコストが上乗せされ、カリフォルニア州の乗車料金は従来に比べ最大で25%高くなり、そのせいで同社全体での予約数が1~2%減るとした。

現在、両社は利用者から受け取る料金の約8割を運転手らに配分する。現状でもサービス運営や研究開発費などをまかなえず、営業損益は業績を確認できる17年1~3月期以降、両社とも10四半期連続で赤字だ。

ウーバーのトニー・ウエスト最高法務責任者は「新たな州法の下でも運転手は独立した事業主だと信じる」と主張するが、旗色は悪い。

ウーバーとリフトの両方で運転手をしているシン・ヨンチョン氏は新たな州法には「賃金などの保証と引き換えに柔軟性を失う」ととまどいをみせる。特定の企業の従業員となれば、別の会社のアプリで並行して乗客の予約を得たり、働く時間を分単位で決めたりしにくくなる。

インターネット経由で仕事を請け負うギグワーカーは場所や時間を選ばない自由な働き方などが支持され、世界で急増している。しかし働き手を保護する枠組みは脆弱だ。

日本では政府が今年6月にまとめた成長戦略で、副業と兼業の拡大やフリーランスとして働きやすい環境づくりを打ち出した。特定の発注者に収入を頼る個人事業主は170万人程度いる。

個人事業主は企業に雇用される労働者と違い、最低賃金や労災保険、有給休暇が適用されない。法整備は遅れており、厚生労働省は検討会を設け、契約ルールの整備などを議論し始めた。

公正取引委員会も企業が個人事業主に不利な条件を強要していないか監視を強めようとするが、具体策はこれからだ。「何をもって優越的地位の乱用になるか見極めるのは難しい」(池田毅弁護士)と課題は多い。

穂高弥生子弁護士は安全網の必要性は認めつつ「一律に従業員として労働法を適用することは働き方の硬直化にもつながる」と指摘する。カリフォルニアを起点とする労働規制の見直しは柔軟で新しい働き方として脚光を浴びるギグエコノミーの今後に一石を投じる。

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