達人芸、よみがえった一夜(演芸評)
六代目笑福亭松喬七回忌落語会

関西タイムライン
コラム(地域)
2019/9/19 18:59
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天満天神繁昌亭が誕生して13年。当初から大入りの寄席で六代目松喬は大黒柱として活躍した。だが、円熟の絶頂期にガンを患い最後まで芸に命を燃やして62歳で逝去。「おかえり、松喬さん 六代目笑福亭松喬七回忌落語会」(7日・天満天神繁昌亭)は、追悼と同時に故人が切望した一夜の帰還でもあったろう。舞台に鮮やかな達人芸が蘇(よみがえ)った。

友への供養をにじませた笑福亭福笑(大阪市北区の天満天神繁昌亭)

友への供養をにじませた笑福亭福笑(大阪市北区の天満天神繁昌亭)

一門の生喬や遊喬が軽妙な語りにじわりと進境を見せて先輩らにつないだ前半。題も笑える三人会「仲の悪い兄弟たち」を一緒に続けた松枝と福笑は、同じ釜のメシを食い共に師匠・松鶴の罵倒を浴びた仲間だ。その松枝は「袈裟(けさ)御前」で時代絵巻をアホらしい笑いに包み、福笑は「葬儀屋さん」を表現力全開で熱演する。老父の死に直面した遺族の本音と打算で爆笑させ、堰(せき)を切ってあふれる愛(いと)しさも「痴楽綴(つづ)り方教室」でまぜ返してさらに笑いの連打。別れの悲しみをふき飛ばす会心の一席は友への供養だっただろうか。

トリは映像による六代目松喬の「はてなの茶碗(ちゃわん)」だ。桂米朝の代表的なネタだが、本格派の名手は丁寧に継承しながら料理加減が実に巧妙だ。ひと儲(もう)けを目論(もくろ)む油屋の大阪もん気質を際立たせ、ハッタリを効かす欲や大胆さの半面素直な庶民感情を描いて血を通わせる。人間くさい描写は笑福亭ならでは。京一番の道具屋との対比は格段の面白さで、自然な語りにこめる熱量の凄(すご)みと相まってぐいぐい引き込んだ。

ありし日の繁昌亭での高座。寄席で当たり前にこんな落語が聞けたのだ。ギャグを排した王道で人の普遍の情を活写した六代目松喬。繁昌亭でそんな心ある落語家が何人育っているだろうか。あの世から改めて問われているようだった。

(演芸ジャーナリスト やまだ りよこ)

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