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生理用品なぜ隠す?批判恐れぬ勇敢マーケ(日経MJ)

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NIKKEI MJ

「働き方改革」「女性活躍推進」……。女性の生き方がかつてなく多様化し画一的な女性観が薄らいでいる今、埋もれがちな声を拾い上げようとする新しいマーケティングが生まれつつある。従来型のマスマーケティングでは少数派の意見を押し殺しかねない。声なき消費者に刺さるのは、少数意見や批判も真正面から受け止める「ブレイブ(勇敢な)」マーケティングだ。

「袋は要らない」

「普段ネガティブなことを言われることはあまりないが、このプロジェクトには批判も寄せられた。大丈夫かな、とへこんだときもあった」

こう話すのは、ユニ・チャームの生理用品ブランド「ソフィ」のマーケティング責任者を務める野元世界・フェミニンケア事業本部部長だ。

6月、ユニ・チャームはソフィで「#NoBagForMe」プロジェクトを始めた。「私には袋は要らない」というメッセージは、ドラッグストアなどで店員が生理用品を隠すように透けない袋に分けて入れることへの違和感を表す。

買い手も売り手も、当たり前と受け入れてきたことを「なぜ隠す必要があるのか」と問い直すことをきっかけに、生理について気兼ねなく話せる環境をつくるのが、プロジェクトの目的だという。「ライフスタイルが多様化し、生理用品に求められるものも変化している。選択肢の幅を広げたい」(長井千香子ブランドマネージャー)

プロジェクトのメンバーにはアパレルブランド運営会社代表のハヤカワ五味さん、菅本裕子(ゆうこす)さんなど多様な女性インフルエンサー5人を加えた。まず、買い物袋で隠す必要性を感じさせない、タンポンの新しい外装デザインの開発に取り組んだ。

だが立ち上げ直後、SNSを中心にネットには辛辣な意見が飛び交った。「私は隠してほしい。こんなプロジェクトを続ける限り、もうソフィは買いません」――。賛同する声を上回る熱量の書き込みも相次いだ。

強い言葉で「当たり前」を否定

それでも、長井ブランドマネージャーは「制御不能を引きうける」姿勢でプロジェクトを続行。「自分の事として捉えてもらうためには強い言葉で『当たり前』を否定することが必要だった」

ある程度拒絶されることは想定の範囲内。批判への対応は、顧客対応部署と広報とで、統一した想定問答を用意して臨んだ。

プロジェクトの進め方も、これまでのマーケティングの常識とは違う。

プロジェクトで選んだ3つのパッケージ候補のうち、SNSや街頭での人気投票で36.7%と一番支持されたのは猫のイラストが描かれた「CAT」。だが、「従来製品と大差ない」「かわいすぎる」といった批判も多かった。

この場合、36.4%と僅差で批判が少なかった「SKY」を選ぶのが通常の手法。だが、批判をおして最初の約束通りCATの製品化を決定した。加えて、SKYはナプキン、ライナーのデザインに採用。多様な消費者の声にできる限り対応した。タンポンは大手ドラッグストアの店舗やネット通販サイトで12月に発売する予定だ。

プロジェクトへの意見は様々だ。北海道在住の30代女性は「消耗品感覚でパッケージに求めるものはないが、どうせ買うならかわいいとうれしい。経験のないタンポンを使ってみる気持ちになった」と話す。

一方で、神奈川県在住の30代女性は「デザイン候補はどれもピンとこなかった」という。「会社は男性ばかりでトイレは男女兼用。もっとシンプルなのが欲しい」。ネットでは多数決でデザインを採用すること自体への批判も上がった。

「第3の生理用品」じわり浸透

ユニ・チャームは生理用品で国内首位。タンポンでは市場をほぼ独占する。プロジェクトの帰結次第では確立したブランドイメージを毀損しかねない。だが「社長や役員も含め、社内での反対意見は全くなかった」(野元部長)。

従来ソフィのパッケージは同じ属性の消費者を数人集め、グループインタビューや模擬売り場での行動分析を通じ、どれを採用するか決めていた。「多くの人が花柄やピンクといった従来型のデザインを選び、結果同じようなデザインが踏襲されてきた」(長井さん)

だが近年、シリコーン製で繰り返し使う「月経カップ」がナプキンやタンポンに次ぐ「第3の生理用品」としてネット通販を中心に静かに売れ始めている。ユニ・チャームでは扱っていない商品が市場を席巻する可能性も出てきた。

ゴールは臨機応変に

消費者の価値観の大きな変化に対応するために、従来とは異なる手法で埋もれた声に向き合う必要がある、と判断した。

今回のプロジェクトの立ち上げには同社の戦略立案の変化も後押しする。2019年から「OODAループ」と呼ばれる意思決定手法を社内で本格的に取り入れた。市場の変化を観察して状況判断しながら、すばやく意思決定する。市場が変化すれば事業のゴールも臨機応変に変えていく。

女性の価値観が多様化し、ひとくくりにできない時代。プロジェクトを通じて多様で複雑な女性の思いを正面から受け止め、新しい商品開発にもつなげる狙いだ。

いつの時代も声なき消費者のニーズを拾うことがマーケティングの要諦だ。価値観がゆらぐ現代。勇気を持って当たり前を問い直し、様々な声に真摯に向き合うことが、新しい時代の消費を生む原動力になりそうだ。

「選べることに意味がある」

ユニ・チャームが展開する「#NoBagForMe」プロジェクトメンバーでアパレルブランド運営会社代表のハヤカワ五味さんは、自身でも生理用品のセレクトショップ「イルミネート」を立ちあげた。ハヤカワさんはイルミネートの活動について「知ることがテーマ」と話す。

生理がタブー視されてきたことを問題視し、商品やサービスを提示して消費者に「常識」の不確かさを問いかける。6月以降、様々な生理用品を扱うポップアップストアを東京と大阪で開設。9月12日にはLINEの対話アプリ上で生理日管理や生理用品購入をサポートするサービスをリリースした。

「知らないと納得がいく選択をできない。選べることに意味がある」(ハヤカワさん)。東京のポップアップストアを訪れた大学2年生の女性は、「これまで生理についてあまり考えたことがなかったが、良いきっかけになった」と話す。

パンテーン、議論生むことに集中

かつて「女の命」と賞された髪にも勇気のマーケティングは広がる。プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&Gジャパン)は、女性向けヘアケアブランド「パンテーン」で髪にまつわる様々な当たり前に疑問を投げかける「#HairWeGo」プロジェクトを2018年から手掛ける。

「#この髪どうしてダメですか」と題したキャンペーンでは中学校や高校で生まれつき髪が茶色い生徒に提出が求められることがある「地毛証明書」について問題提起。大きな反響を呼んだ。

7月にはキャンペーンに賛同したNPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事を中心に、髪の黒染めを強要する指導の撤廃を求め、2万件近い署名が東京都教育委員会に手渡された。

さらに、特設サイトでもっと自由な髪形で就職活動をすることを提案して賛同企業を募集し、1カ月弱で139社が集まった。DeNAや人材サービス会社のエン・ジャパン、さらには東京海上日動火災保険のようなかたい金融機関まで、顔ぶれは多彩だ。

#HairWeGoの運営でP&Gアソシエイト・ブランド・ディレクターの大倉佳晃氏が気をつけたのは、ブランドがモノを申すのではなく議論を生むことに集中することだった。「いち日用品ブランドが○○すべきだと言うことは炎上につながる」(南部かおりブランドコミュニケーションシニアマネージャー)

炎上の危険性は感じているが、リスクをとってやる価値があると判断。キャンペーンで使う言葉を一言一句点検し、上から目線にならず、誰も攻撃しない表現を追求した。その結果、「批判もあるが建設的な議論がおきて、おおむね狙っていたとおりの効果があった」(大倉氏)。パンテーンの売り上げにも好影響が出ているという。

リスク避けすぎも逆効果

女性にまつわるマーケティングは、女性蔑視や固定的なジェンダー観などの問題点が指摘されて批判が殺到する例が少なくない。これまで様々な企業の広告が「炎上」し、広告の取り下げや謝罪に追い込まれてきた。

働く女性を男性的だとしたコピーは「女性への侮辱」、母親が1人で子育てに奮闘するテレビCMは「育児を女性の役割と決めつけている」などの批判が起きた。フリージャーナリストで「炎上しない企業情報発信」(日本経済新聞出版社)の著者、治部れんげ氏は「社会慣習や男性に都合のよい"型"を女性に押しつけている点が共通している」と分析する。

治部氏は炎上した企業内にも問題に気がついていた人がいることが多いと指摘する。その上で炎上を過度に恐れることも否定する。「自信を持って出したものなら簡単に取り下げない方がいい」

ゴディバジャパン(東京・港)の新聞広告「日本は、義理チョコをやめよう。Godiva」などを手がけたクリエイティブディレクターの原野守弘氏も、「思ったことを言えなくなる時代が来るのが一番のリスク」と指摘する。

SNSではいいことも悪いこともすぐ広まる。「自社の信念を強く持って勇敢に行動しないと両面性があるソーシャルメディアを乗りこなせない」(原野氏)

現在は多くの企業が炎上リスクを恐れ、女性にかかわる問題で積極的になれていない。原野氏は「誰もやっていないときに最初に言うのが重要。今やったらヒーローになれる」とする。一方で、「今後フェミニズムに対する意見を持っていない企業は恐ろしいことになる」とも。

本質が刺されば消費者は企業やブランドに強い愛着を持ってくれる。難しい問題に逃げずに真摯に向き合うことこそ、遠回りのようで王道なのかもしれない。

(山田彩未)

[日経MJ2019年9月20日掲載]...

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