運転手は従業員、ウーバーに逆風 遠のく黒字化

スタートアップ
2019/9/19 14:39
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【シリコンバレー=佐藤浩実、白石武志】米カリフォルニア州で18日、独立事業主の定義を厳しくする新法が成立した。米ウーバーテクノロジーズなどのライドシェアは運転手の一部を「従業員」として扱う必要があり、最低賃金の保証などで追加の費用負担を迫られ、黒字化が遠のく。待遇悪化が指摘される運転手の救済にはなるが、ネットで単発の仕事を請け負う「ギグエコノミー」の発展には逆風だ。他州も追随すれば、全米に影響が広がる。

カリフォルニア州で成立した新法により、ウーバーやリフトは運転手を「従業員」として扱わなければならなくなる見込みだ(写真は新法成立を求めていた活動家ら)=AP

9月上旬に州議会を通過した「AB5」と呼ぶ法案にギャビン・ニューサム知事が18日に署名し、法律として成立した。発効は2020年1月。ニューサム氏は「労働者と我々の経済にとって画期的な法律」と強調した。コスト削減のために産業界で横行する労働者の「誤った分類」にメスを入れ、働き手を守る。

新法は独立事業主の条件を(1)会社の管理・監督下にないこと(2)会社の通常業務の範囲外の仕事をしていること(3)同じ業界で独立した事業を手掛けていること――と定める。雇い主となる企業は3つの条件すべてを証明できない限り、労働者を従業員として扱わなければいけなくなる。具体的には最低賃金を保証したり、失業や病欠時の保険を手当てしたりする必要が生じる。医師や弁護士などは適用対象外だ。

最も影響を受けるとみられるのが、ギグエコノミーの代表格とされるライドシェア大手のウーバーとリフトだ。両社はスマートフォンのアプリを介して一般の運転手と乗客をマッチングするサービスを提供する。これまでは運転手らを独立事業主として扱ってきた。

「所有」から「利用」への消費動向の変化も追い風に急成長を遂げ、19年にはそろって上場を果たした両社だが、法案の議論の過程では大学教授らから「(ウーバーなどの運転手は)アルゴリズムによって従業員のように管理されている」との声もあがっていた。新たな州法には、ライドシェア市場拡大の裏でこれまで顧みられることが少なかった運転手らの権利を保護する狙いがある。

英バークレイズはカリフォルニア州でライドシェアの運転手を従業員として扱った場合、社会保障税などの負担によって1人当たり年3625ドル(約39万円)の追加費用がかかると試算する。ウーバーは同州で14万人、リフトは8万人の運転手を抱えているとされる。単純計算すると、ウーバーで年5億ドル、リフトで年2億9000万ドルの追加費用が生じる。

米モルガン・スタンレーは新たな州法によって運転手に関わる費用が35%上昇すると予想する。コストの大部分は運賃に上乗せされ、カリフォルニア州の乗車料金は従来に比べ最大で25%高くなるとみる。運賃上昇で予約数が1~2%減るとしている。

ウーバーとリフトは利用者から受け取る料金の約8割をサービスの担い手である運転手らに配分している。残り2割の手数料収入だけではサービス運営や研究開発費などをまかなえない状態が続いている。本業のもうけを示す営業損益は業績を確認できる17年1~3月期以降、両社とも10四半期連続で赤字が続いており、労働者保護の新たなルールは業績改善を遅らせる可能性がある。

ウーバーは「新たな州法の下でも運転手は独立した事業主だと信じる」(トニー・ウエスト最高法務責任者)と主張する。「ウーバーは複数のデジタルな市場を提供するプラットフォーム」であり、運転手の仕事は「通常の業務にあたらない」というのが理由だ。ただ、米法律事務所プロコピオで労働法を専門とするタイラー・ペットコー弁護士は「道行く人に『ウーバーは何か?』と聞いたら通常は『ライドシェア』と答える。ウーバーの主張は通用しないだろう」と指摘する。

待遇改善につながるとみられる運転手からは戸惑いの声も出ている。ウーバーは運転手を従業員として扱う場合、交代制の勤務を取り入れ、特定の地域を担当させることになると説明しているためだ。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校が18年に260人の運転手を対象に実施した調査によれば、ライドシェア企業の従業員になりたいと答えた割合は56%にとどまった。

ウーバーとリフトの両方で運転手をしているシン・ヨンチョン氏は新たな州法への賛否について「半々だ」と話す。特定のライドシェア企業の従業員となった場合、別の会社のアプリで並行して乗客を捕まえたり、働く時間を分単位で自由に決めたりすることは難しくなるという。「賃金などの保証を得られるが、柔軟性は失う」(ヨンチョン氏)

労働者保護の分野でカリフォルニア州は全米の規制作りをリードしており、他州にも影響は広がりそうだ。ウェイン州立大学のピーター・ヘニング教授は「ニューヨーク州でも同様の提案がすでにあり、マサチューセッツやコネティカット、ミシガンなどの州もカリフォルニアに追随する可能性がある」という。

影響はウーバーやリフトにとどまらず、食料品配達のドアダッシュやポストメイツなど、スマホの普及とともに急成長したシリコンバレーの新興企業群にも及ぶ見込みだ。米労働統計局の18年の発表によると、全就業者の6.9%にあたる1060万人が独立したフリーランス(請負労働者)として働く。「柔軟で新しい働き方を可能にする」として脚光を浴びてきたギグエコノミーだが、お膝元のカリフォルニアを起点とする規制強化によって転機を迎えることになる。

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