英国ロイヤル・オペラ「ファウスト」救済の劇的演出

アートレビュー
2019/9/20 6:00
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英国ロイヤル・オペラの来日は4年ぶり6回目。長期にわたり音楽監督の任にあるアントニオ・パッパーノが指揮を務める。グノー「ファウスト」は現地では長く親しまれている演目だが、大規模なため引っ越し公演には珍しい。

表情豊かに熱唱するグリゴーロ(中央左)とウィリス=ソレンセン(中央右)=堀田 力丸撮影

表情豊かに熱唱するグリゴーロ(中央左)とウィリス=ソレンセン(中央右)=堀田 力丸撮影

歌唱陣もスター揃(ぞろ)い。ファウストのヴィットリオ・グリゴーロは柔軟でふくよかだが芯の強い声、踏み込みのよい演技で終始客席を魅了した。マルグリートのレイチェル・ウィリス=ソレンセンはスケールの大きな歌唱を細やかな技のキレで支えた。イルデブランド・ダルカンジェロはメフィストフェレスの魔性を冷徹に表現してファウストと好対照をなした。

演出のデイヴィッド・マクヴィカーは、原作の設定を作曲当時の1870年ごろのパリへと移す。そこは暗部をはらみつつ発展する芸術の都だ。ファウストはキャバレーでマルグリートと出会い、メフィストフェレスには奇怪な動きをする魑魅魍魎(ちみもうりょう)がつきまとう。せん妄的な痙攣(けいれん)や壮麗な音楽を破る突発的な哄笑(こうしょう)を通じ、嬰児(えいじ)殺しに至るマルグリートの狂気が生々しく立ち上がった。

グランド・オペラのお約束であるバレエの場面には妊婦や死者を登場させ、悪魔に憑(つ)かれたファウストの錯乱をグロテスクに可視化。悪趣味や背徳感によって救済をよりドラマチックに仕立てたあたり、マクヴィカーの面目躍如だろう。処刑前のマルグリートを救おうとする三重唱は限界に近いヴォリュームで、まさに絶唱だ。

見どころは多かったが、立役者を一人挙げるならやはりパッパーノか。伸びやかな歌声も、躍動するピットも、モブシーンのダイナミズムも、軽やかなステップもすべて、生き生きとしたタクトに結びあった。12日、東京文化会館。22日に神奈川県民ホールで公演。

(音楽評論家 江藤 光紀)

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