米政権の対イラン政策、強硬姿勢も新たな紛争は回避へ
【ワシントン=中村亮】トランプ米政権がサウジアラビアの石油施設攻撃に関与した疑いのあるイランに対して慎重な姿勢を見せている。トランプ大統領は16日、イランの関与が断定されれば報復措置をとる強硬な構えを見せる半面、「戦闘は望んでいない」と語った。政権内や米議会のイラン強硬派に配慮しつつも大統領再選に向けて国民から反発を受けやすい新たな紛争を避けたい意向とみられる。
「必要ならば相応の措置をとる」。トランプ氏はホワイトハウスで記者団にイランの関与を断定した場合の対応をこう力説した。サウジが石油生産の半分に影響が出る攻撃を受けたことを踏まえ、報復攻撃も排除しない考えを示唆した発言とみられる。国防費増額や最新鋭ステルス戦闘機F35をあげて「歴史上のいかなる国よりも戦闘への準備を整えている」とイランを挑発した。
トランプ氏の側近は強力な対抗措置を訴える。米メディアによると、ポンペオ国務長官や国務省のイラン担当特別代表ブライアン・フック氏は中東での米軍の戦力増強を助言。トランプ氏に近い与党・共和党のリンゼー・グラム上院議員は「イランが挑発行動などを続ける場合はイランの石油施設に対する攻撃を検討すべきだ」と主張した。
トランプ氏は15日にもツイッターで情報の分析結果によっては「臨戦態勢をとる」と強調してイランをけん制した。米政権は5月に戦略爆撃機や空母を中東に派遣し、16年ぶりに米軍をサウジに駐留させる方針を決めた。2018年秋に中東で縮小すると決めたミサイル防衛部隊も一転して増強しイランに対する抑止力を高めてきた。
一方でトランプ氏はイランとの軍事衝突は望まないと繰り返す。16日に「例外はあるがサウジは私が新たな戦闘に巻き込まれたくないことを知っている」と指摘。「戦争を望まない」「イランは取引を望んでいる」などとも語った。大規模な軍事衝突に発展すれば、選挙公約にした駐留米軍の縮小・撤収に逆行して支持離れにつながりかねない。
トランプ氏は6月、イランが米無人機を撃墜した際に同国への報復攻撃を直前で中止した。米国に死傷者が出なかったのに対し、米国の攻撃でイランに多数の死傷者を出すのは釣り合わないと理由を説明した。今回のサウジ攻撃でも米国人の犠牲者は出ていない。トランプ氏は原油価格の高騰についても「そんなに上がっていない」と指摘した。
トランプ政権下の国務省で軍事顧問を務めたアッバース・ダフーク氏は「現時点での報復攻撃はイランの対米強硬派を勢いづかせるだけで生産的ではない」とみる。サウジが単独攻撃に踏み切る可能性はあるが、標的選定などは米軍に頼らざるを得ないと指摘。トランプ氏が中東での緊張拡大を許容しなければ単独攻撃も難しいと分析する。トランプ氏はサウジにポンペオ氏を近く派遣する方針で対応策を詰める。
トランプ氏は9月下旬の国連総会でイランに対する包囲網の構築を目指すとみられる。18年5月にイラン核合意を一方的に離脱してから欧州諸国などと亀裂が深まったが、サウジ攻撃やウラン濃縮の拡大などを引き合いにイランに対する非難で結束を示したい考えだ。