5G技術外販で活路探るファーウェイ(The Economist)

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2019/9/16 2:00
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中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の本社にある石柱と巨大な6体のカリアテッド(女性柱)に囲まれた古代ギリシャ風の大きな吹き抜けは、任正非・最高経営責任者(CEO)が西側に自社の一部を差し出して、和平を申し出るにはぴったりの場だった。

華為技術の任正非CEOはエコノミスト誌の取材で「5G技術を西側企業に外販し、公正な競争をしたい」という驚く提案をした=ロイター

華為技術の任正非CEOはエコノミスト誌の取材で「5G技術を西側企業に外販し、公正な競争をしたい」という驚く提案をした=ロイター

深圳にある同社の広大な本社の敷地にそびえ立つ宮殿のようなこの本社ビルのホールには、ファーウェイが誇る次世代通信規格「5G」の技術が展示されている。この待望の超高速モバイル通信網により、車から産業ロボットまであらゆるモノが近くインターネットにつながるようになる。

任氏は10日、本誌(英エコノミスト)との2時間に及ぶインタビューで、同社の今後の売上高拡大を担う「金の卵」であるこの5G技術を海外の企業と共有する用意があると語った。購入してくれれば、同社の5Gの特許からライセンス、ソースコード、技術関連の設計図、製造ノウハウに至るまで何にでもアクセスできるようになる、と。購入した企業は、ソフトウエアの設計図であるソースコードを変更することも可能になるため、購入した企業の機器を組み込んだ通信インフラをファーウェイも中国政府も、仮想制御することさえできないという。そしてファーウェイも同様に自社の技術を好きなようにさらに開発していけばよい、と語った。

■技術外販の狙いは西側との公正な競争

ファーウェイは今年に入って企業イメージを上げようと必死に広報活動を展開している。任氏は1月以降、海外メディアのインタビューに毎月1度応じている。だが、5Gの特許やコード、設計図といった「スタック」まで競合他社に渡すというのは、これまで同社が明らかにした中では最も大胆な申し出だ。香港の調査会社ギャブカル・ドラゴノミクスのダン・ワン氏は「技術史の中で、こんな前例は思い浮かばない」と驚く。

任氏は、5G分野でファーウェイと競合できるライバルを誕生させるのが目的だと語った(ファーウェイは既存の契約を維持し、5G機器の販売を続ける)。中国企業1社が世界の新たなモバイル通信網の大半の設備供給を担うシナリオに西側が警戒感を募らせる中、自社技術を西側企業に外販すれば、西側と公正な条件で競争できるようになると考えているのだろう。任氏は「利益をバランスよく分配できれば、ファーウェイの存続につながる」と話した。

任氏は本気だ。米国は中国が世界に広がるファーウェイの通信網を使って他国にスパイ行為を仕掛けるのではないかと疑い、数カ月に及ぶ攻撃でファーウェイを打ちのめしてきた。さらに同盟国に5G網を構築する際、ファーウェイを排除するよう迫っている。5月には安全保障上の観点から米企業がファーウェイに部品やソフトウエアを販売することを禁じ、8月には米政府機関が同社から製品を調達することも禁じた(ファーウェイはこの措置について提訴する構えだ)。

■西側諸国にとってメリットはある

一見すると、任氏の申し出には大きなメリットがある。5G技術の外販で競合が台頭すれば、ファーウェイ機器の使用を禁止しているオーストラリアなどの国は、もはやファーウェイが持つ最先端かつ安価な技術と、中国に盗聴される懸念との間で選択を迫られずにすむ。西側同盟国(の企業)から最高の技術を得られるようになるからだ。そうなれば、通信機器の購入は、政治家の手から経営面からだけで判断する役員会の手に委ねられることになる。

ファーウェイ製品に不信感を抱く層に対し、同社は純粋に利益を追求する企業だと納得してもらえる可能性もある。技術の売却により得る資金で同社は「さらに大きな一歩を踏み出せる」と任氏は言う。同社の5G技術は、外販した場合、数百億ドルの価値に達する可能性がある。ファーウェイはこの10年で5G技術の研究開発費に少なくとも20億ドル(約2150億円)を投じてきた。

任氏には、より公正な競争環境を整える方針を示すことで、ファーウェイが市場を支配するのではないかという懸念と、米国が同社に抱く安全保障上の懸念を切り離したいという狙いもある。米ワシントンのシンクタンク、ニュー・アメリカのサム・サックス氏は、任氏の申し出は「米政府の意図を探るのが狙いだ」と言う。サックス氏が言うには、米政府は今、フアーウェイに対抗できる企業をどう育てるか考えており、米企業を育てるか、フアーウェイ最大のライバルであるスウェーデンのエリクソンかフィンランドのノキアの競争力を高めるべく支援すべきか検討中だという。

通信各社が特定の部品について様々なメーカーの製品を同時に使ったり、簡単に他社製品に替えたりできるよう、互換性を高める動きも進行中だ。通信規格団体「オープンRAN」は規格の標準化を進めるため、互いにデータを送信できるようファーウェイなどのインフラメーカーに5G規格への賛同を求めているが、ファーウェイは現時点では拒否している。

■中国政府は売却を許可するのか

もっとも、任氏の5G技術の外販が実際にあり得るのかという点には疑問も多い。中国政府が世界的な競争力を持つ数少ない自国企業に、果たしてその中核事業の売却を認めるだろうか。5Gは今や良くも悪くも覇権国の代理戦争と化している。任氏は本誌(英エコノミスト)に対し「5Gはスピードの象徴だ」とした上で「その5Gを導入した国は猛スピードで躍進するだろうが、スピードや優れた接続技術の採用をあきらめる国の経済成長は鈍化するかもしれない」と主張する。

仮に中国政府がファーウェイによる5G技術の外販を認めたとしても、どの企業が買うだろうか。任氏は「見当もつかない」と話す。エリクソンやノキアなど大手には誇りもあり、買収に二の足を踏むだろう。そしてファーウェイ技術の価値に疑問を呈するだろう(両社は18年度は赤字を計上しており、資金が足りないという問題も抱える)。

規模のない企業が購入しても、ファーウェイと同じ土俵で競うのは難しい。ファーウェイは大手通信各社に既に浸透しているため、その多くは納入業者を変えても金銭的メリットはない、と複数のコンサルタントは指摘する。韓国の大企業、サムスン電子は資金力が豊富で、通信機器事業はまだ小さいが伸びているので、他に買い手がいなければ強気の値下げ交渉ができるだろう。複数の企業が共同で購入する可能性もあるが、どの企業がそんな連合を組むか全く分からない。

購入に名乗りを上げても他の理由で断念する可能性もある。ファーウェイが本当に技術を売る用意があるなら、ワン氏が指摘するように「同社は将来購入先が主たる競合になるリスクを受け入れる必要がある」。

■華為の強みは技術力、低価格、速さだけでない

だがサックス氏は、同社が支配的地位を築けたのは、技術力に加え、低価格で製品を速いスピードで市場に投入できることが大きいと指摘する。西側企業が避ける地域でも進出しようとする姿勢も見逃せない。ファーウェイ以外にアフリカのマラリアが発生する湿地をかき分けて進出したり、南米コロンビアの山腹に基地局を設置する企業があるだろうか。

任氏はこれをわかっている。たとえ米企業が同社の貴重なノウハウを手に入れたとして同じことができるかと尋ねられた時、任氏は自信たっぷりに「そうは思わない」と答えた。5G技術を買う可能性のある企業もこのことをわかっている。

最後に、ほとんどの人は、技術を売却しても少なくとも短期的には米政府の安全保障関係機関の怒りは鎮められないと考えている。米国の通信機器の半分は中国で生産されており、ファーウェイの技術を購入する企業も中国で生産し続ける必要があるのはほぼ間違いない。従って、中国のスパイ行為への懸念も消えないだろう。

フアーウェイが今力をいれているのはイメージアップ作戦だけではない。同社は3日、米政府高官らを「当社に対する根拠のない告発を行うため」に社員になりすまして潜入したと非難した。また米政府が同社にサイバー攻撃を仕掛けているとも主張しており、両者の関係が悪化する可能性はある。

■だが、スマホ事業は試練に直面

では、外販の提案はファーウェイが追い詰められている兆しなのか。任氏はその懸念を全面否定した。ネットワークインフラ事業では、米政府による禁輸措置に影響を受けない代わりの供給元を見つけたとしている。また、来年赤字に陥る可能性も否定した。

とはいえ消費者向け事業は試練に直面している。18年12月期の売上高1050億ドルの半分は世界で販売した2億800万台のスマホによるもので、利益の大きな部分を占める。この事業が深刻な状況にある。中国以外で販売されるファーウェイのスマホが人気なのは、主に米グーグルが所有・改編権を持つソフトを搭載しているからだ。ファーウェイのスマホが搭載するグーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」はオープンソースだがアプリは違う。グーグルは米企業で、アプリも米国で開発されているため、米商務省が禁じている同社への米企業の技術提供にはアプリも含まれる。

任氏はグーグルがファーウェイへのアプリ提供を再開できるよう米政府に働きかけていると言うが、今のところ効果はない。米政府の方針が変わらない限り、ファーウェイはオープンソースのアンドロイドは使えても消費者が当然搭載されていると期待するアプリは使えない。同社は自前のOS「ハーモニー」を開発中だが、成熟したエコシステムを築いているアンドロイドの競争相手になるには何年もかかる。

つまりファーウェイのすべての新機種はGメールやグーグルマップ、ユーチューブ、グーグルプレイストアなしで出荷される。特に対話アプリの「ワッツアップ」や写真共有の「インスタグラム」やフェイスブックを簡単にダウンロードできるプレイストアが入っていないのは問題だ。特にワッツアップは米国以外の多くの地域で標準的なメッセージアプリとなっている。

■19日に独自OSの高機種スマホ発表するが

米政府が態度を軟化させない限り、ファーウェイの新型スマホは通話機能も持つまずまずの品質のカメラにすぎない。同社は米国の禁輸措置の対象になって以降、初の高価格帯のスマホ新機種「Mate30」を独ミュンヘンで19日に発表する。同社はハードウェアの性能が高いので販売は増えると主張するが、重要な機能を欠くスマホがヒットするとは考えにくい。消費者向け事業が苦戦すれば利益も減少する。

一方、グーグルのアプリに依存する必要がない中国国内市場では、同社のスマホ事業は急拡大している。しかし同社のスマホの年間売上高約200億ドルの3分の2は国外だ。経営陣は業績予想の公表を繰り返し拒否しているが、今年1~8月のグループ全体の売上高の伸びは前年同期比20%と、19年上半期の23%から鈍化した。「Mate30」や後継機種が失敗すれば、同社の年間売上高は数十億ドル減少する。

サプライチェーンに関する似た問題は他の事業にも影響を及ぼす。同社のソフト設計担当者は、スマホ以外にもネットワーク機器などあらゆる電子製品を動かすソフトの開発に使われるコンパイラーやライブラリーと呼ばれるソフトツールを急いで作成している。グーグルがアンドロイドを自前で開発したように、ファーウェイもOSをはじめ周辺のエコシステムを作り出さなければならない。そうしたエコシステムの進化は、様々な目標やインセンティブを持つ外部の開発者に依存する。そのため自社にできることは限られ、進化には何年もかかる。ファーウェイのハードに関する優れた知識の集積はほとんど役に立たない。

■強気の任氏だが、将来は確実に不透明

任氏は強気だが、ファーウェイの財務も厳しい状況にある。同氏もHSBCやスタンダードチャータードなど欧米主要銀行との関係悪化は認める。それでも同社は多額の現金を保有しており、任氏によれば中小の金融機関は融資に前向きだという。過去にファーウェイと同社の競合中興通訊(ZTE)に融資枠を設定したとされる中国国家開発銀行が、必要なら融資するかもしれない。

任氏と彼の部下は繰り返し同社のキャッシュフローは「健全」だと主張し、同社の旺盛な建設事業を証拠に挙げる。14億ドルを投じて総面積120ヘクタールの研究施設を最近完成させたことをその証拠に挙げる。

ファーウェイはハードウェアを製造・販売する企業から、これまで外部調達していた様々の多くの部品までも製造する企業への変容を迫られている。この種の変化は企業に負担をかける。米国から調達していた部品やソフトを自ら新たに調達すべく多額の投資を余儀なくされる中、稼ぎ頭が脅威にさらされている。

任氏は5G技術の売却を提案することでファーウェイをさらに発展させる燃料を入手できると思っているかもしれない。しかし深圳の本社に飾られている派手なフレスコ画とそれ以上に派手で大胆な任氏の提案の裏をのぞけば、ファーウェイの将来は全く不透明だ。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. September 13, 2019 All rights reserved.

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