海を渡る自治体のノウハウ 教育から介護・消防まで

2019/9/21 11:30
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自治体の国際協力の裾野が広がっている。かつて国際協力と言えば大規模なインフラなどのイメージが強く、自治体が表に出る機会は限られたが、昨今の国際協力の主役は水道やごみ処理のほか、美術教育、介護などの身近な公共サービスだ。日本の技術やきめ細かなサービスは海外でも高く評価されており、アジアなどの海外自治体に課題解決の一助を目指して提供されている。(「日経グローカル」371号に詳報)

伝えるノウハウが生活に密着して地味なだけに、規模の大小を問わず、様々な自治体が関与することが可能だ。多くの場合、自治体は公的なプログラムを活用しながら国際協力活動を行っている。よく使われるのは途上国向けの技術協力などを行う国際協力機構(JICA、東京・千代田)と、自治体の国際戦略などを支援する自治体国際化協会(同・同)のプログラム。協力内容などの調整で仲介役を担ってもらえるうえ、必要な経費などの支援も受けられるからだ。

JICAは2002年から市民参加型の事業に力を入れ、「草の根技術協力事業」と銘打ち、自治体や非政府組織(NGO)、大学などの活用を想定した幅広いメニューを用意している。「技術やノウハウを持っている自治体はたくさんある。草の根技術協力はプログラムのメニューをそろえているので活用してもらいたい」と、地域連携担当の岩切敏・理事長特別補佐は期待する。草の根技術協力事業の件数はアジア中心に累計で1300件を超え、事業を手掛ける自治体も県から市町村まで、北は北海道から南は沖縄までと幅広い。

一方、自治体国際化協会のプログラムは、(1)海外自治体から職員を研修員として受け入れる(2)日本の自治体の職員・OBの中から海外自治体に専門家を派遣(3)先駆的な役割を果たすと思われる事業を対象に助成金などを支給する国際協力促進――の3本柱からなる。

SDGsへの関心の高まりも追い風に

自治体の国際協力が広がっている背景には、友好都市レベルの関係を深化させる具体的なツールとして活用されている点も挙げられる。国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)に関心を持つ自治体の増加も追い風だ。SDGsの内容は自治体が取り組む施策と似ており、親和性が高い。日常業務が国際的な活動に直結することをSDGsで理解していれば、国際協力のハードルはさらに低くなる。

とはいえ、他国に日本の公共サービスのノウハウやスキルを伝授するのはそう容易ではない。社会背景も文化も異なり、期待されるサービスの内容や考え方が日本と異なるかもしれないからだ。単純に自国のやり方を押しつけても、中長期的な課題解決には貢献できない恐れもある。

そのため、技術やノウハウの伝授に当たっては、現地にあったやり方として確立できるように相手側に現地の目線で考えてもらい、日本側はそれを支援するという姿勢が基本になる。既存の施設やサービスがある場合は、それをうまく生かせるように改善点を示すことも必要になる。

伝える相手も、自治体職員に加えて、ボランティアなど幅広い人が含まれる場合も少なくない。また、現地では気付いていない要因があるかもしれない。技術や経験で一日の長がある日本の自治体の職員は、外部の視点を生かした助言が期待される。

国際協力の対象となる公共サービスは多様で、意外なものも少なくない。例えば、香川県は生活習慣病の予防ノウハウを、経済成長著しいベトナムのハイフォン市で今年3月まで、3年間にわたって伝授してきた。

ベトナム・ハイフォン市の小学校では授業開始前に教室でストレッチ体操をする(香川県内の小学校での取り組みを現地でアレンジした)

ベトナム・ハイフォン市の小学校では授業開始前に教室でストレッチ体操をする(香川県内の小学校での取り組みを現地でアレンジした)

同県は人口当たりの糖尿病患者数が全国で最も多かった時期もあり、2012年から生活習慣病予防の一環として子どもへの予防にも力を入れ始めた。小学4年生を対象に血液検査を実施、児童に健康や栄養の指導をしている。

ハイフォン市はハノイ、ホーチミンなどと並ぶ5つの中央直轄市の1つ。肥満、高血圧、糖尿病など生活習慣病の人が増える一方で、予防制度作りが進まず、人材育成や予算面でも課題を抱えていた。そこで、議員交流などで関係のあった同県に生活習慣病対策の協力を要請した。

さらに、大人だけでなく、子どもへの予防は大きな懸案として急浮上した。というのも、事業開始後に市内のある小学校の4年生を対象に健康診断を行ったところ、49%の児童が世界保健機関(WHO)の基準に照らして過体重となり、肥満の子がその半分(全体の22%)を占めたのだ。特に男子は3人に1人が肥満だった。

生活習慣病対策として、現地から研修生を受け入れて、県からも専門家を派遣したほか、現地のモデル小学校2校で生活習慣病予防に取り組み、モデル地区1地区で住民の健康作りを実践した。

その際、2つの点に留意した。第1に日本の方式を押しつけるのではなく、「ハイフォン市に合ったやり方を取り入れてもらう」(プロジェクトマネジャーを務めた藤崎健治・前国際課課長補佐)。第2に子ども向けのプログラムでは学校教育現場と保健部門の連携を重視した。ハイフォン市では健康診断そのものはすでに実施していたが、健診結果がうまく生かされていなかった。「結果をもとにリスクのある人をピックアップして、生活面での指導を通じて大人になって生活習慣病にならないようにする」(サブプロジェクトマネジャーの佐野昌美・保健師)という健診の目的を理解して活用する上でも、教育現場と保健部門の協力という視点は欠かせない。

国際交流は日本の技術継承に直結

自治体の国際協力は相手国の現地にとって課題解決の一助になるだけでなく、日本の自治体にとってもメリットがある。

例えば、愛知県豊橋市は水道技術とごみ減量策で国際協力をしているが、水道技術の協力先であるインドネシアのソロク市には過去5年間でのべ48人の技術系職員を派遣した。日本の水道システムは完成度が高い半面、色々な課題に挑戦しながら経験を積む機会が必ずしも多くない。新人職員がポンと入ってきて何か作業をこなせるという状況ではない。

その点、ソロク市の水道システムは、完成度は高くないかもしれないが、どのようなプロセスで改善していけばよいか、あるいは災害が起きて状況が変化した時に備えてどんな作業をすべきなのかなどの経験やノウハウを得るための貴重な現場といえる。「技術指導や技術継承という点で、こうした経験は役立つ」(浄水課の河合寿主査)。

インド・ガントク市の最終処分場に搬入された収集廃棄物を確認する竹野氏(左のマスクの男性)

インド・ガントク市の最終処分場に搬入された収集廃棄物を確認する竹野氏(左のマスクの男性)

保健医療の分野でも同様のことがいえる。香川県の場合、「既にシステムができあがっている日本では何か新しいことをするのはかなり大変だが、ベトナムでは更地から組み立てるようにして新たにシステムを導入することができる」(保健師の佐野氏)。

ノウハウを伝授する側にとっては、日本で行っている公共サービスの一般的なやり方などを伝えるだけかもしれない。とはいえ、他国の状況に異文化の視点から接することは大いに刺激になることは想像に難くない。廃棄物処理に関してインドのガントク市で指導した豊橋市の竹野宏主査は、市役所あるいは職員レベルでのスキルを向上させるとともに、経験を蓄積する場となったと振り返る。

情(なさ)けは人の為ならずというのは、自治体の国際協力にも当てはまるようだ。

(主任研究員 可部 繁三郎)

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