兵庫県、瀬戸内海への排水基準緩和 魚に「肥料」
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2019/9/15 11:00
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兵庫県が瀬戸内海側で「海をきれいにし過ぎない取り組み」を進めている。過去に赤潮防止のため排水基準を厳しくした結果、植物プランクトンの生育に不可欠な窒素など栄養分が減り、漁業に影響が出ていると判断。プランクトンの生育環境を改善するため昨秋から県内3カ所の下水処理場で排水基準を緩めたほか、今秋にも県独自の水質目標を設ける。

瀬戸内に春の訪れを告げるイカナゴ漁。淡路島以東の大阪湾と以西の播磨灘で3月5日に解禁したが、大阪湾側でたった3日での休漁は関係者に衝撃を与えた。明石市などで盛んなノリ漁も冬から春にかけての収穫は前年同期を下回った。

「1972年の調査開始から特に窒素の量が減っている」。県水産技術センターの原田和弘・研究主幹は説明する。窒素は植物の生育に欠かせないもので、リンなどと並んで海水中の「栄養塩」と呼ぶ。植物が吸収しやすい「溶存無機態窒素」は、瀬戸内側19カ所での定点観測データがそろい始めた74年に表層部で1リットルあたり平均0.151ミリグラムだったが、2018年は0.039ミリグラムに減った。

窒素量が減少した要因の1つとして、過去に海への排水基準を厳しくしたことが挙げられる。高度成長期に生活・産業排水が増え、埋め立てによる干潟の消失などで水質が悪化。排水中の窒素量を減らし、植物プランクトンの異常増殖を抑えることで、赤潮被害の抑制や水質の改善を狙った。窒素量が減るにつれ、海の透明度は上がっている。

一方で、1990年代後半ころからノリの色落ちが目立つようになると、今度は窒素など栄養塩の不足が原因として指摘されるようになった。兵庫県の瀬戸内側の漁獲量も同じころから減少傾向にある。海の栄養不足がプランクトンの生育に影響し、それが漁獲にも波及したとみられている。

広島大学の山本民次教授(水圏生態環境学)は「下水処理場からの窒素やリンなどを人為的に減らしたことが、海水中の栄養塩濃度の低下の最大の原因と思われる」と語る。兵庫県は従来、低く抑えてきた排水中の窒素量を、法令の範囲内で増やす「栄養塩の管理運転」と呼ぶ手法を採用。2008年秋に二見浄化センター(明石市)で試行を始めた。

試行は県内26カ所に広がり、18年秋からは二見浄化センターなど3カ所で本格運用に踏み切った。二見浄化センターでは年平均で1リットルあたり20ミリグラムとしてきた溶存無機態窒素を含む全窒素量を、11~4月は平均で40ミリグラム、5~10月は平均で30ミリグラムに緩和した。

さらに県は条例で、全国でも珍しい海水の水質目標を打ち出す。国の基準で全窒素の上限値は1リットルあたり0.3~1ミリグラムだが、0.2ミリグラムという下限値を今秋にも瀬戸内側で設ける。

海水中の栄養塩の濃度と漁獲量の関連性については、別の見方もある。東京海洋大学の神田穣太教授(化学海洋学)は「下水処理場からの窒素などを増やせば、漁獲が素直に元に戻るかは誰にも分からない。赤潮や海水浴などへの影響を確かめながら、慎重に進める必要がある」と話す。

不漁の原因として海水温の上昇や干潟の減少、取りすぎなども指摘される。ただ、取りすぎについて兵庫県漁業協同組合連合会の突々淳専務理事は「この20年ほどは漁期など自主規制をずっと続けている」と訴える。自然相手の取り組みだけに、成果は見通せない部分も多い。豊かで美しい海を後生に引き継ごうとする試行錯誤が続いている。

(小嶋誠治)

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