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鳥谷、松坂も特別扱いなし プロの引退模様

スポーツライター 浜田昭八

どんな優れたアスリートでも、現役引退は避けられない。競技に対する知識、愛着はあふれるほどにあっても、加齢とともに体力が衰える。トップレベルの技術を維持するための練習がままならぬ状態になって、引退が脳裏をよぎる。個人差はあるが、プロ野球選手の場合は38歳辺りで力が尽きるケースが多い。

阪神・鳥谷は今季、代打要員に甘んじてきた=共同

8月31日の阪神―巨人戦(甲子園)で厳しい現実を見た。2-2で迎えた七回裏1死、打者は8番梅野隆太郎。9番は投手ドリスなので、次打者席には鳥谷敬(38)が立っていた。ところが、梅野三振で2死になると、ドリスの代打に中谷将大が起用され、そのソロホーマーで阪神は勝った。

「梅野が出塁したら鳥谷。2死無走者になったら、一発のある中谷」に決めていたと矢野燿大監督。結局、この日の鳥谷は次打者席でバットスイングの顔見せだけに終わった。阪神ひと筋に16年。ずっと遊撃を守り続けてきたが、ここ2年は内野の控え扱い。今季は遊撃への復帰を矢野監督に直訴したが、若手を抜けず代打要員に甘んじてきた。

ファンは鳥谷に沸き立つけれど…

中谷がヒーローになった試合での矢野監督の采配は、野球的には全く問題がない。鳥谷は8月23日からのヤクルト3連戦(神宮)で代打起用されたあと「これが最後かも……」と漏らして騒ぎになった。本人は早大時代に自分を育ててくれた、思い出の多い球場に対する愛惜の情を述べたつもりだっただろうが、これが現役引退表明と受け止められた。矢野采配は鳥谷発言に全くとらわれず「勝つため」に最善の方法をとっただけだ。走者ありなら鳥谷で上位打線へつなぎ、なしなら中谷の一発に期待しようとするのは、当時の両選手の打撃の調子から見て理にかなっていた。

甲子園球場の記者席は観客席に密着していて、ファンの声がじかに伝わる。鳥谷が次打者席に立つだけで沸いたファンは、ベンチへ下がる姿を見て大不満だった。中谷の一発で救われたが、凡退だったらどんな騒ぎになっていただろうか。理にかなった野球と、ファンが求める野球は、いつも一致するとは限らない。そこにエンターテインメントとしてのプロ野球の難しさがある。

中日・松坂は今季キャンプで右肩を負傷、2登板しかしていない=共同

引退かどうかが取りざたされているスターはほかにもいる。中日・松坂大輔(39)だ。大リーグから復帰して4年目。ソフトバンクを経て、昨季は中日で6勝4敗と健闘した。だが今季はキャンプで右肩を痛め、2登板しただけ。7月27日に先発したDeNA戦(ナゴヤドーム)では10打者と対して1死をとっただけ。被安打8、1死球で8失点という醜態を演じた。そのまま2軍落ちした。

それでも本人は現役続行を強く希望し、球団にその意思を伝えた。これに対して球団は来季の契約は「白紙」。阪神ひと筋の鳥谷の処遇ですら特別扱いがない。球団への功績で引退するときの扱いに差をつけるのは時代遅れかもしれない。それでも"外様"の松坂が優遇されないだろうという厳しい現実がある。健全なチーム作りを念頭においた処遇とファン感情の狭間で、関係者の苦悩は続く。

自ら引退を申し出て、球界を去った巨人の上原

穏やかに事を収めたケースもある。上原浩治(44)は5月に巨人に引退を申し入れて去った。大リーグから復帰した昨季は0勝5敗14ホールド。今季は1軍登板がないままに終わった。大リーグではストッパーで活躍し、ワールドシリーズにも出場した。日米両球界で功成り名を遂げた幸せな引退だといえる。

このほか、ロッテ・福浦和也(43)、日本ハム・田中賢介(38)は今季限りの引退を決めている。福浦はすでに今季、2軍打撃コーチを兼任しており、指導者への道を進む。広島のストッパーだった永川勝浩(38)、がん手術を乗り越えた赤松真人(37)も引退を表明した。最下位に沈むヤクルトでは、元最多勝投手の館山昌平(38)と、元打点王の畠山和洋(37)が引退する。新旧交代の波は元スターに対しても容赦ない。

新しい形の有終の美を見せる元大リーガー

世間的には引退したと思われているが、球界復帰を粘り強く目指している選手もいる。元ソフトバンク・川崎宗則(38)は昨年3月、自律神経を病んで退団、事実上引退したとみられた。だが今年7月に選手兼任コーチで台湾プロリーグの味全ドラゴンズ入りした。体調は回復、日本球界復帰の意欲は十分だ。元ロッテ、阪神の西岡剛(35)も独立リーグのBC栃木入りして、球界復帰の夢を捨てていない。

今季限りの引退を決めた日ハム・田中賢。左は入団時の監督だった大島康徳氏=共同

われわれ日本人は晩節を汚さず「有終の美」を飾るという意識が強い。だが、外国人選手、とりわけハングリーな中南米系選手にはボロボロになるまでプレーして稼ぐタイプが多い。渡米して、そういった選手と競った松坂、上原、田中、川崎、西岡らは「有終」にさほどとらわれず、1年ごとに勝負を挑む彼らの姿勢に影響されたのではないか。それもまた新しい形の有終の美ではないか。

(敬称略)

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