劇団磨くミナミの登竜門 「ウイングカップ」10周年
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2019/9/13 7:01
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プロトテアトルの「ノクターン」は会場となる劇場ウイングフィールドの歴史も取り込んだ作品だ

プロトテアトルの「ノクターン」は会場となる劇場ウイングフィールドの歴史も取り込んだ作品だ

大阪・ミナミの小劇場、ウイングフィールドが劇団の発掘・育成を目的に開催する演劇祭「ウイングカップ」が10周年を迎えた。今年度を含め、のべ76団体が参加。旗揚げ間もない劇団でも参加できるハードルの低さとは裏腹に、受賞劇団は活躍の場を広げている。関西演劇界の登竜門としてすっかり定着した。

■「自我確立の場」

今年度は11月から来年1月まで計7団体が舞台に上がる。「今からひっくり返す」を主宰する現役高校生、小林夢祈は「今後、活動していくにはウイングカップへの参加は必須だと思った」と話す。

小林は中学時代から同劇場のワークショップなどに参加。「ウイングカップをきっかけに成長していく先輩劇団をたくさん見てきた。参加は(演劇ファンから)注目してもらう大事なポイント」とみる。

これまで数多くの劇団がウイングカップから飛躍していった。記憶をテーマにした会話劇「ノクターン」で第5回(2014年度)の最優秀賞を受賞したのがプロトテアトル。代表のFOペレイラ宏一朗が中学・高校時代の体験を扱いつつ「長い歴史が染み込んだウイングフィールドの記憶も織り込んだ」作品だった。

そこにいない1人の人物について語り合う数人の男女。その内容から徐々に話題の人物が浮かび上がってくる構造の回想劇を高い完成度で舞台化した構成力が審査員に高く評価された。

ペレイラは演劇祭を通じ「他劇団と自分たちはどこが違うのか考えたり、新しい観客に見てもらったりすることで劇団の自我が確立していった」と振り返る。旗揚げから1年ほどでの参加だったが、受賞後は戯曲の書き下ろしや公演の誘いが寄せられ、客演も多い。

劇作家や演出家との交流、演出ワークショップなど充実した育成の取り組みも用意。参加劇団の活躍を促し、その飛躍が演劇祭の知名度向上につながる好循環をつくってきた。

歴代の最優秀賞を受けた劇団のうち、遊劇舞台二月病はその後、OMS戯曲賞の最終選考、N2がAAF戯曲賞の最終候補にノミネート。アイホール(兵庫県伊丹市)が気鋭の若手と制作する企画にもうんなま(当時は「劇団うんこなまず」)と二月病が選出された。ウイングカップから飛躍した劇団が目立つ。

■関西以外も関心

短編で競う演劇祭も多いなか「参加劇団が本当に作りたい作品を評価したい」(同劇場の橋本匡市)と「本公演」での参加を求めているのも特徴だ。二月病の中川真一は「本当にやりたいことをやった作品が評価されたから、今も演劇を続けられている」と話す。

当時「演劇を続けるか悩んでいた」中川だが、審査員だった演出家・笠井友仁らとの交流はその後の活動を支えた。ブルーカラー演劇を自称し、決して派手な作風ではない劇団が活動を続けていく足場になった。

10周年の特別企画として、20年春に7~8団体が受賞作を再演する「大再演博覧会」も予定。二月病やプロトテアトルなど現在進行形でファンを増やしている劇団の原点ともいえる作品が上演される貴重な機会となりそうだ。

開始当初「10回までは続けたい」と話していたウイングフィールドの福本年雄代表はこうした過去の受賞劇団の活躍に「手応えは十分感じている」と話す。近年は名古屋、東京の劇団も参加するなど関西圏外からの認知度も高まっている。「若手劇団の意識やニーズも日々変化している。彼ら彼女らの声を聞きながら、一緒に作っていく演劇祭にしたい」と次の10年を見据えている。

(佐藤洋輔)

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