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マルクス・レーム パラの絶対王者が夢見る「共生」

Tokyo2020
2019/9/12 18:00
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マルクス・レーム(ドイツ)は世界で最も名が知られているパラアスリートだろう。パラリンピック陸上男子走り幅跳びの、片足膝下が義足のクラスで2012年ロンドン、16年リオデジャネイロと金メダル。8メートル48と健常者並みの自己ベスト(世界記録)が注目を集める。東京での3連覇は確実視されているが、31歳の真のゴールは別にある。五輪選手とパラ選手とが、共に競い合う姿を見せることだ。

自己ベストは8メートル48。五輪でも金メダル争いが可能なレベルだ

自己ベストは8メートル48。五輪でも金メダル争いが可能なレベルだ

ここ5年、毎年夏のドイツ陸上選手権でおなじみになった光景がある。男子走り幅跳びの表彰式で、健常者の選手がメダルを受けた後、レームが表彰台に加わって4人で記念撮影。その後レームが残り、別の金メダルを授与される。

奇妙な儀式には訳がある。唯一のパラ選手として参加するレームの跳躍が、常に健常の選手を上回るのだ。今年は8メートル32。健常者のトップは8メートル05だった。「メダルはいらないと言ったが、ドイツ陸上連盟がそうしたいと言うんだ。障害者が健常者と同じ距離を跳べることを示して、パラスポーツを宣伝したいだけなんだけど」とレーム。

健常者と同じ土俵で戦うという挑戦は14年に始まった。ドイツ選手権で8メートル24を跳び、公式に優勝者となる。だが、健常選手のコーチらから異議が出て、ドイツ陸連はレームを欧州選手権に派遣しなかった。

「失望した。短気な人間じゃないけど少し怒った。僕のことをよく知らないで彼らは判断したから。誰かからメダルを盗むことが目的じゃないのに」。翌年から別々の表彰式が始まる。

波紋は広がり、五輪出場も目指したレームの前に国際陸連が示した参加条件が「義足が有利ではないことを証明せよ」だった。ケルン体育大学などが調査したが「助走時は義足が不利で踏み切り時は有利だが、全体的に有利か不利かはわからない」という結果。

条件を満たせず、リオ五輪は断念した。レームが参加した国際陸連のワーキンググループも機能せず、東京五輪もあきらめたという。「彼らはルールをつくって、これで終わり、という。でもこれは逆に陸上界にとってチャンスなんだ」とレームは力を込める。

ドイツ選手権と同様、健常者と同じメダルがもらえない形での五輪参加でもOKだという。五輪で義足選手が健常者と競えれば、多くの人が持つパラ選手は健常者に劣るとのイメージを覆せる。「『スポーツは世界を変える力がある』という言葉が好きだ。五輪選手とパラ選手の共生が普通だと示せれば、社会でもそれが普通だと学べる」

また「時代は変わり、人々は普通の大会では満足せず、楽しませてもらいたいはず。ショーを作らないといけない。義足や車いすで走るのを見るのは楽しめる。陸上というスポーツをもっと前進させられる」とも話す。

東京パラ開幕1年前イベント参加で来日した

東京パラ開幕1年前イベント参加で来日した

8月の東京パラ1年前を機に、大会組織委員会が企画したイベント。その能力のすごさを強調するため、わざと扇風機で後ろから風を起こす中をレームは喜んで跳んだ。一歩間違えば「見せ物」と批判されるかもしれない。だが、障害者でもこれだけのことができるという、人々の固定観念をひっくり返して驚きを与えることがレームの求める「ショー」で、その思いに企画が合致した。

リオ五輪の男子走り幅跳びの優勝記録は8メートル38。15年世界パラ陸上で8メートル40を出したレームだったが、リオ五輪の後のリオ・パラでは8メートル21にとどまった。来年、東京パラで約1カ月前の五輪記録を上回ったら……。文字通り、「世界を変えた大ジャンプ」と後世まで伝えられるかもしれない。

(摂待卓)

13年と同じ義足、練習で記録改善
03年夏、14歳だったレームはウエークボードの事故で右膝下を切断した。7歳から親しんでいた走り幅跳びに本格的に取り組んだのは20歳から。今も所属するスポーツクラブのパラ担当ディレクターに見初められ、会ったその日に高価なスポーツ用義足を渡された。「これは"未来への投資"だと言われてね。その通りになった」
12年ロンドン・パラでの優勝記録は7メートル35。翌年からずっと同じ義足を使い、昨年に8メートル48まで記録を伸ばしたことこそ、トレーニングの成果で義足が理由ではないことの証明だという。今季からメーカーと共同開発した走り幅跳び専用の柔らかい義足を使い、7月のジャパンパラ陸上で8メートル38。「硬い義足に頼った跳躍」との批判も蹴散らした。

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