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「たばこのない五輪」街にも 自治体、喫煙対策に苦心

千葉市は受動喫煙対策を動画でPRしている(8月、同中央区の市役所)

2020年東京五輪・パラリンピックは、競技会場の敷地内が完全禁煙となる初めての夏季大会だ。これを機に受動喫煙を減らそうと、会場がある都市は規制などに本腰を入れる。「たばこのない大会」の理念をどう具体化し、訪れる人に周知してルールを守ってもらうか。苦慮する自治体も少なくない。

小さな飲食店でも従業員がいる場合は原則、屋内禁煙とします――。レスリングなどの会場となる幕張メッセがある千葉市は、市内の大型ビジョンや「ユーチューブ」でこんな内容のアニメ動画を放映し、20年4月全面施行の受動喫煙防止条例をアピールしている。

従業員を雇う飲食店は、飲食できない専用室を設けない限り店内で喫煙できない。違反すれば5万円以下の過料を科す。同月全面施行の国の改正健康増進法は、個人経営など客席面積100平方メートル以下の店は屋内禁煙の対象外。千葉市の条例はより踏み込んだ内容となっている。

東京都でも同様の条例が全面施行される。都内飲食店の8割以上が対象となり、都幹部は「開催都市として国より厳しい基準にすべきだと意識した」と話す。

東京都千代田区が設置した移動可能な喫煙トレーラー(8月)

オフィスビルがひしめく千代田区の一角には、一風変わった喫煙室が置かれている。下に車輪が付いた移動式の「喫煙トレーラー」だ。路上喫煙を禁じる同区が2月に導入した。

利用した男性会社員(45)は「本当は青空の下で吸いたいけど、仕方ないね」。区内には柔道などの会場となる日本武道館がある。現在は1台のみだが順次増やす予定で、区安全生活課の担当者は「大会時に会場近くに移動させ、路上喫煙を防ぎたい」と話す。

競技会場の全面禁煙、夏季大会で初

東京大会では国際オリンピック委員会(IOC)の「たばこのない五輪」という理念に基づき、期間中、競技会場の敷地内は完全禁煙になる。屋外も含めた敷地内禁煙は夏季大会では初めてのことだ。

規制強化は会場のある都市にとどまらない。大阪府でも、喫煙できる飲食店を客席面積30平方メートル以下とする受動喫煙防止条例が25年4月に全面施行される。

ただルールは守られなければ意味がない。みなとみらい21地区など、市内8カ所を路上喫煙禁止地区に指定する横浜市。会場となる横浜スタジアムや横浜国際総合競技場の周辺も吸えないはずだが、夜間の野球やサッカーの試合の翌朝は吸い殻が目に付く。市は「なかなか無くならない。しっかり対策をしたい」(街の美化推進課)とする。

静岡県伊豆市の自転車競技会場「伊豆ベロドローム」の最寄り駅までは、東京から新幹線などを使って2時間ほどかかる。市の担当者は「喫煙者は到着したときにどうしてもたばこを吸いたくなる」と危惧する。

路上喫煙は禁じておらず、観光客が歩きながらたばこを吸い、道に捨てることも少なくない。今も訪日客は多いが大会時はさらに増えそう。ポイ捨てなどを減らすため、外国人を含めどう周知するか思案中だ。

大会組織委の遠藤利明副会長は「五輪から煙のない社会が広がれば、それもレガシーになる」と語る。実現には地道な取り組みが必要になりそうだ。

禁煙の流れ、IOCが先導

国際オリンピック委員会(IOC)は1988年のカルガリー冬季大会にあわせ、五輪における禁煙の原則を方針として掲げた。競技会場は屋外の指定エリアをのぞいて禁煙に。開催する国や都市は会場外でも対策を強化するようになり、五輪は紫煙が漂う場を狭める役割を担ってきた。

IOCはカルガリー大会以降も対策に力を入れた。2010年には世界保健機関(WHO)と「たばこのない五輪」を目指す合意文書に調印。「生活習慣病のリスクを減らすための活動と政策を推進するために協力する」とした。

開催する国や都市は会場だけでなく、飲食店などを含む屋内施設での喫煙を禁じるようになった。12年ロンドン大会の英国、14年ソチ大会のロシアでは、屋内施設を全面禁煙とする法律が施行されている。

世界最大のたばこ消費国、中国でも北京市が08年大会前に禁煙規定を強化した。医療施設や駅など公共の場所では喫煙を禁じていたが、スポーツ施設やジムなどを追加。15年には冬季五輪の誘致に向け、職場など屋内での喫煙を全面的に禁じる世界的にも厳しい条例を同市が施行している。

2018年の平昌冬季五輪でも、飲食店内は原則禁煙になった(江陵市)

会場では16年のリオ大会まで「屋内は禁煙、屋外に喫煙所設置」のパターンが続いたが、IOCは17年に敷地内での禁煙を指示した。18年平昌大会ではこれに沿って「会場内は完全禁煙」の方針で開かれた。

東京大会も会場は同様の対応になる。大会組織委員会によると、平昌ではボランティアや大会関係者のために喫煙スペースが設けられた会場もあったが、東京大会では設けない。組織委幹部は「どんな立場であっても会場内では喫煙できない。係員にも監視してもらい、『煙ゼロ』にする」と強調する。

1964年の東京大会では、会場で喫煙しながら応援する観客は多かった。開催を記念したたばこが販売され、機運醸成に一役買った。当時は8割にのぼった男性の喫煙率は今や3割を切る。たばこ一つとっても様変わりした大会になる。

たばこの警告表示、拡大


 東京五輪が開かれる2020年、たばこの警告表示も変わる。現在は「喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます」といった表示はケースの面積の30%以上。財務省は表示ルールを改め、同年4月には同50%以上に広げる。
 すでに民間では、喫煙スペース撤去や店内の全面禁煙などの動きが広がっている。セブン―イレブン・ジャパンは都内で灰皿を店頭に置くコンビニエンスストア加盟店約1000店に撤去を要請した。「来店者からなくしてほしいという声が多かった」(同社)といい、健康への配慮を優先することにした。
 「ガスト」など約3200店を運営する外食大手のすかいらーくホールディングスは、9月から全店で敷地内を全面禁煙にした。サイゼリヤも全約1000店の全席を禁煙にしている。

(筒井恒)

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