2019年9月21日(土)

過激集団に変質した英保守党(The Economist)

英EU離脱
The Economist
2019/9/9 23:00
保存
共有
印刷
その他

The Economist

英保守党議員といえば、ハモンド前財務相を思い浮かべるだろう。長身の白髪まじりで、自身の財政政策と同じ超辛口のユーモアのセンスを持つ人物だ。ケネス・クラーク議員を連想する人もいるだろう。この丸々とした体形で常に葉巻をくわえているジャズ愛好家は、保守党議員を49年間務め、首相を除くほぼ全ての主要ポストを歴任してきた。この2人でなければ国防相を以前務めたニコラス・ソームズ議員だろうか。彼はチャーチル元首相のような振る舞いをするが、それはチャーチルの孫だからだ。3人はそれぞれ違った形で保守党議員を代表する存在だが、もはや同党には属していない。

ジョンソン英首相は、EU離脱延期法案を支持した保守党の重鎮3人を除名した(右からハモンド前財務相、クラーク議員、ソームズ議員)=いずれもロイター

ジョンソン英首相は、EU離脱延期法案を支持した保守党の重鎮3人を除名した(右からハモンド前財務相、クラーク議員、ソームズ議員)=いずれもロイター

3人は、10月末の欧州連合(EU)からの合意なき離脱を阻止する離脱延期法案に4日、賛成したためジョンソン首相に保守党から除名され、次の総選挙で立候補しても同党の公認を受けられなくなった。そんな造反議員は、この3人を含め計21人に上った。

■首相の実弟まで離脱する保守党の変貌ぶり

世界最古の政党である英保守党は今、革命ともいえる大変革を遂げているが、造反議員の除名は、その変化の最も目立つ部分でしかない。財政規律を守り、社会自由主義を擁護し、EUからの秩序ある離脱を望む勢力は一敗地にまみれた、ということだ。

ばらまき財政と独裁主義的な政策を求め、「決死の覚悟で」EUのくびきからの解放を求める勢力が今や党内で権力を握る。保守党の活動家向けブログ「コンサバティブ・ホーム」は9月第1週を「我々が知る保守党の終わり」と呼んだ。党の変貌ぶりは首相の弟ジョー氏にさえ耐えがたいものだった。同氏は5日、「家族への忠誠と国益の間で引き裂かれてきた」とツイートし、議員を辞職した。

この保守党の革命を生き延びるには、政治的信条において柔軟なことが求められている。ジョンソン内閣には長年「小さな政府」を支持してきた閣僚が多い。緊縮財政が全盛だった2012年に、5人の野心的な若手保守党議員が「ブリタニア・アンチェインド(何にも束縛されない英国)」という「小さな政府」を絶賛する本を出版した。そのうちの4人は今、財政支出拡大に転じようとしているジョンソン内閣の閣僚だ。

■2010年以来の緊縮財政とも決別

4日に発表された来年度予算には、10年以降初めて国家財政の国内総生産(GDP)比を拡大させる政策が含まれている。ジャビド財務相はリバタリアン(自由至上主義)の間で今も大きな影響力を持つ故アイン・ランドを信奉しており、執務室には(「小さな政府」を志向した)サッチャー元英首相の写真を飾っている。にもかかわらずジョンソン氏の指示で総選挙を念頭に前年度比138億ポンド(約1兆8000億円)増額した予算を組んだ。財源は新たな借り入れで賄われる。

保守党は、「法と秩序」の面でも新しい考え方をしている。政府は2万人の警察官を追加採用する計画で、犯罪に対する懲役刑が現在軽すぎるのではないかとして再検討する見込みだ。内相のパテル氏は、移民の取り締まり強化を訴え、過去に死刑制度の復活も支持していた人物だ。これは一部の保守党議員がジョンソン氏に期待していた内容とは大きく異なる。入閣したある議員は同氏が首相に就任する前は「(ジョンソン氏の内閣は)リベラルな中道主義になる」と語っていた。保守党の新たな内政政策を冗談で「国営医療制度(NHS)に予算を、小児性愛者には絞首刑を」と呼ぶ評論家もいる。

■離脱方針決めているカミングス上級顧問への批判

現政権が最も強硬なのはEU離脱を巡る方針だ。保守党議員は、自分の議席を守るにはEU離脱の実現が不可欠と理解している。だがジョンソン氏のやり方では合意なき離脱となる可能性が高く、沈黙を守っている保守党の多くの議員は不安を感じている。

ジョンソン首相の上級顧問を務めるカミングス氏=ロイター

ジョンソン首相の上級顧問を務めるカミングス氏=ロイター

保守党の中でも合意なき離脱を支持している議員は極めて少ない。16年のEU離脱の是非を問うた国民投票で離脱を熱心に支持したある閣僚ですら、合意なき離脱は破滅を招くと認めている。それでもジョンソン氏が方向はどうあれ事態を前進させる決意を見せていることから、同氏に従おうとしている議員は多い。「彼らは賛成はしていないかもしれないが、事が進み始めたことには満足している」とある閣僚は説明する。

進む方向を決めているのは首相の上級顧問を務めるドミニク・カミングス氏だ。だがこの人物は、自分が保守党員であるかどうかさえ明らかにしていない。保守党の党首選でジョンソン氏は、誰もが自分は英国民だと思えるような「国民を一つにする」政府をつくると約束した。

だが、ジョンソン氏は議会でEU離脱に関する議論の時間を圧縮するため、1945年以降最も長期間となる議会の閉会を決めるなど、英国が築いてきた様々な制度を揺るがしている。離脱延期法案が成立してもエリザベス女王に裁可しないよう助言する案など、従来では考えられなかった手段が今やおおっぴらに議論されている。

保守党のリベラルなシンクタンク「ブライトブルー」のライアン・ショートハウス氏は「今の保守党政権は、財政面でも制度面でもあまり保守的とはいえない」と指摘する。

ジョンソン政権の強権的な手法は、キャメロン氏が首相として党を率い、EU懐疑派が党の方針に背いて反乱を起こしていた頃とは対照的だ。今回の造反議員の除名処分が示すように、ジョンソン氏は反乱を許さない。

国民投票で離脱派のキャンペーンを展開した一派「ボート・リーブ」のメンバーが今は首相府を牛耳り、ベテラン議員は今の状況にあきれている。83年から議員を務めるロジャー・ゲール氏は「首相府の心臓部に、首相の上級顧問として選挙で選ばれていない口汚い愚か者がいる」と言った。約100人の穏健派保守党議員でつくるグループ「ワン・ネーション」は、除名した議員たちの復党をジョンソン氏に認めるよう求めている。

■だが保守党の革命は続かない可能性も

除名処分は保守党議員らの間にジョンソン氏への強い反発を引き起こしたが、カミングス氏の戦略はほぼ影響を受けていない。首相と側近らは、総選挙でずる賢い政治家たちに裏切られた有権者の味方としてジョンソン氏を打ち出し、保守党に投票すれば公共サービスに巨額の予算を投じると訴えている。「(首相は)自分の望む選挙を実施し、その結果、自分の望む枠組みを手にするだろう」とある元首相府関係者は話す。

だが、保守党の革命は永続的なものとは限らない。ロンドン大学のティム・ベール教授は、離脱派の急先鋒(せんぽう)であるファラージ氏率いるブレグジット党に票が流れるのを防ぐために保守党は手厚い政策を示しているだけで、その政策は次の総選挙までしか続かない可能性があると指摘する。

ジョンソン氏は4日に議会下院でのあきれた党首討論で「この国に必要なのは、まっとうかつ穏健で、先進的な保守党政府だ」と言った。だが今の保守党を見る限り、その実現にはかなり時間がかかりそうだ。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. September 7, 2019 All rights reserved.

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。