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豊島逸夫の金のつぶやき

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金暴落、逃避マネー逆流の実相

2019/9/6 10:23
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香港情勢と英国の欧州連合離脱(ブレグジット)に市場の不安が募り、国際金価格は1トロイオンス=1550ドルの「危機ライン」を試す展開になっていた。このラインを本格的に上抜ければ一気に1700ドルも視野に入るので、超短期の投機筋も、派手な「空中戦」を繰り広げていた。

そこに米中貿易協議が先送りながら再開されるとの報道が飛び込み、潮目が急激に変わった。24時間の価格をグラフで見ると、崖から落ちるごとく1510ドル台まで暴落したのだ。

債券市場でも、米10年債利回りが前日1.45%から1.56%に、同2年債が1.42%から1.53%にまで急騰した。数年ぶりとされる上げ幅だ。金利を生まない金にとって金利急騰は天敵である。注目される長短金利のイールド格差も僅差ながらプラス圏にとどまった。ドイツの30年債利回りがマイナス圏からプラス圏に転じたこともニュースになる。

そもそも、金市場での空中戦の当事者たちも8月の急騰に高値警戒感を抱いていた。「ゴールド・パーティーが華やかに開催されているので、お相伴に預かるべくパーティーには参加する。ただしいつ何時、中締めの挨拶が始まるやもしれないので、会場では出口に近い場所に陣取る」とも語られた。

その中締めの一報が、まず中国から届いたのだ。そして米国側も協議再開を追認した。ただ中国側は「10月はじめにワシントン訪問」と具体的な時期に言及したが、米国側は「まず副閣僚級、そして閣僚級会談と段階的に数週間かけて進めてゆく」とやや控えめな情報だ。

中国政府系の新聞は「とても良いことが起きる」とはやしている。中国側が、10月の国慶節(建国記念日)の休暇期間中は米国との経済摩擦の不安を払拭したいとの本音が透ける。しかし、金市場も含め、マーケット全体を見渡しても、米中接近を本気で歓迎できるほどの楽観論は見られない。これまでに協議再開、協議中断を何度経験したことか。「またか」との疑念が根強い。

結局、5日のマーケットの動きは一部の超短期筋のポジション手じまいに尽きる。株売り、債券買い、ドル・円買い、金買いが一斉に巻き戻された。これまでドカ雪のごとく市場に積み上がったこれらのポジションが、米中協議再開の「音」で表層雪崩を引き起こしたのだ。新雪が流され、地肌が見えたところで、また同じ投機的動きの第二波が発生する可能性には要注意だ。

米中協議にしても、例えば中国が望む華為技術(ファーウエイ)への禁輸緩和をトランプ大統領は「切り札」として温存するであろう。そしてワイルドカードは香港だ。依然、一触即発の緊迫感が漂う。筆者は、結局、国慶節という期間限定の米中停戦と読んでいる。「中国は次期米政権との取引を待ち望んでいる。私が(選挙に)勝てば、合意するのはさらに難しくなる」とのトランプ大統領の基本的認識は変わらない。

5日発表の米サプライマネジメント協会(ISM)非製造業景況感指数が56.4と改善。米ADPが発表した8月の全米雇用リポートも非製造業の雇用者数(政府部門を除く)が前月から19万5千人増と好調だった。ダウ工業株30種平均は372ドル急騰。トランプ氏が中国に対して強硬になれる市場環境だ。

建国70周年記念活動に雑音は発せずとの「武士の情け」と、香港カードをちらつかせ、「友人」習近平(シー・ジンピン)氏に貸しをつくる、というトランプ流の取引が連想される。「結局、何も変わっていない」。ニューヨークのヘッジファンド・マネジャーのつぶやきが、市場心理の底流を物語る。

豊島逸夫(としま・いつお)
 豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
・公式サイト(www.toshimajibu.org)
・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)
・ツイッター@jefftoshima
・業務窓口はitsuo.toshima@toshimajibu.org

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