/

国内船、深刻な人手不足 海の流通停滞の恐れ

国内港を結ぶ「内航船」が人手不足に陥っている。石油製品や鉄鋼といった産業用資材を主に運び、国内貨物輸送の4割を担うが、船員数は20年間で約40%減少した。船員の高齢化も進み、廃業も相次ぐ。一度乗船すると数カ月休みのない勤務形態などから、若者が定着しない事情があるとみられる。専門家は「産業資材の物流が滞れば、消費者にも影響しかねない」と懸念する。

6月下旬、福岡市の博多港に1隻のタンカーが入港した。「連日の航海と荷役で船員の疲労がたまっている。停泊の日程を入れられないか」。男性船長(61)は荷主側と日程の調整を行う海運会社の営業担当者に相談したが、「休ませたいが、交代できる船も船員も足りない」と断られた。

「最近は若者が定着しない。人手不足で休みが取れず、船員が辞めていく悪循環に陥っている」と船長は話す。

旅客や貨物を運ぶ内航船のうち、貨物船はガソリンなどの石油製品のほか、鉄鋼や石灰石といった産業資材を中心に牛乳などの農林水産物など多岐にわたる物を輸送する。

国土交通省によると、内航船の船員数は1995年の約4万8千人から2017年には約2万8千人に減少した。50歳以上が47%を占めており、高齢化が進む。

背景にあるのが内航船の特殊な働き方とされる。船員は連続で2~3カ月間働き、1カ月ほど休むのが一般的だ。船員には労働基準法ではなく船員法が適用され、残業規制を柱とする働き方改革関連法の対象にもならなかった。

同省によると、船員の1カ月の総実労働時間は約240時間に上り、建設業や運輸業を約60時間上回る。内航船員は単純労働者に分類され、外国人労働者の就労が認められていないことも人員確保の壁を高くしている。

「労働環境の改善は課題だが、人件費などコストをかけられない事情もある」と、ある運航会社の男性役員はこぼす。

国交省によると、荷主の多くが大手メーカーである一方、内航船の運航会社の99%は中小企業で、タンカーなどを1隻保有するだけの小規模事業者が大半を占める。男性役員は「荷主に運賃の引き上げを要求したら、別の業者に切り替えられるリスクもある」と語る。

内航船の減少は市民生活にも影響を及ぼしかねない。

流通科学大の森隆行教授(海運)は「内航船の物流網が機能不全に陥ると産業資材の輸送が滞り、メーカーの事業に影響が出る。ガソリンなど生活物資の流通の停滞につながる恐れもある」と懸念する。「外国人労働者を雇用できるよう制度を見直すなど早急な対策が必要だ」と指摘する。

国交省は6月、業界団体や経済界、有識者らと労働環境の改善に向けた「内航海運のあり方」に関する協議を開始。スマートフォンアプリを活用した船員の労働実態調査に乗り出した。

国交省海事局は「労働慣行や船内の生活環境の見直し、荷主への追加コストの負担を議論し、20年夏ごろには結論を出したい」としている。

賃金高くても若者は敬遠

2018年の船員労働統計などによると、内航船員の月額賃金は約47万8000円(平均45.7歳)。一般労働者の30万6000円(平均42.9歳)を大きく上回る。一方で労働時間の長さや船内の通信環境の悪さ、長期間帰宅できないことなどから、若者がなかなか就業しない状況が続いている。

船員らは2~3カ月に及ぶ航海中、見張りや操船など4時間の当直後、8時間の休憩に入るのが一般的だ。ただ休憩中にも設備点検、甲板のサビ取り、船内の掃除をこなす必要がある。

さらに作業に全員であたらなくてはならない出入港や荷役が組み込まれると、休憩時間を削らざるを得ないのが実情だ。こうした厳しい労働環境から若者が定着しないとみられている。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン