2019年9月19日(木)

阪神工業地帯守る海の門番「尼ロック」
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2019/9/5 7:01
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8月15日、西日本のUターンラッシュを直撃した台風10号。最接近の前日、兵庫県尼崎市臨海部の尼崎閘門(こうもん、愛称・尼ロック)では、高潮などで漂流物が閘門にぶつかるのを防ぐ鉄骨組みの防衝工の設置作業が進んでいた。

水位が調節され運河側から入った船が海側へ進む様子=兵庫県尼崎港管理事務所提供

水位が調節され運河側から入った船が海側へ進む様子=兵庫県尼崎港管理事務所提供

尼ロックは2つの閘門で運河と海の水位差を調節して船を通す施設。水位は通常、運河側が1メートル程度低い。レオナルド・ダ・ヴィンチが考案したとされパナマ運河にも使われる観音開き式閘門を採用している。

大正時代からの地下水くみ上げで市域の3分の1が海面より低いゼロメートル地帯となった尼崎市。1934年の室戸台風では高潮襲来で市内の3分の2が浸水し、50年のジェーン台風でも全半壊家屋約8000戸、床上・床下浸水は約2万5000戸、被災人数は人口の86%に及んだ。

工場が立地する臨海部では戦前から約7キロに及ぶ運河が造成され、原材料などを運ぶ船舶の運航が活発だった。そのため国や兵庫県は海岸と河川沿いに防潮堤を設け、閘門により船の通航も可能にする「閘門式防潮堤」を国内で初採用した。55年に第一閘門、65年に第二閘門が完成し、以降は大きな被害はなく、それぞれ平成に新製されている。

■観音開き船通航

全国の閘門で尼ロックは最大級だ。門が上下にスライドするローラーゲート方式は機構は簡単だが通航する船の高さが制限される。観音開きはゲートを開いた際に中央からの水流と円弧沿いの水流が打ち消し合って船に優しい構造という。

閘門を見下ろす集中コントロールセンターに上ってみた。500総トンまでの船舶に対応し、年間約7000隻が閘門を通過する。2人体制で24時間監視しており、船が近づくとゲートを開く。船から連絡があるわけではなく、あうんの呼吸だ。「ゲートで船をはさまないよう注意を払っている」と担当者は話す。

別室のパネルでは防潮堤沿いの閘門、水門、ポンプ場の状況や雨量、潮位が一目でわかる。大雨で防潮堤内の河川や運河の水位が上がるとポンプ場で海側に水を排出する。隣接する東浜ポンプ場は約7秒で25メートルプールを空にする能力がある。水門やポンプ場は遠隔操作もできるが「職員が現場へ行って動かすのが基本」(兵庫県尼崎港管理事務所施設課の田尻知輝主任)。

2018年9月の台風21号では尼崎で大阪湾最低潮位より4.83メートル高い過去最高潮位を記録した。前扉が同7メートル高い閘門にも高潮が押し寄せ、ベテラン職員さえ「あんなのを見たのは初めて」と言うほど。神戸、芦屋、西宮市は浸水被害を受けたが、尼崎市の防潮堤内に被害はなかった。しかし異常気象が頻発しているほか、南海トラフ地震クラスが起これば津波が河川を遡上し防潮堤を越流する恐れもあり警戒は怠れない。

■災害時フル稼働

併設の防災展示室は7、8月の土日祝日は特別公開し、他の期間も予約すれば団体見学は可能。「ゼロメートル地帯なのになぜ水につからないのか。閘門式防潮堤で人工的に守られた地域に住んでいることを知ってほしい」と管理事務所の出口浩・所長補佐は語る。

「普段は知らなくても生活できるが、災害の際にフル稼働する裏方が尼ロック」というのは尼崎南部再生研究室(尼崎市)の若狭健作研究員。同研究室などの実行委員会は毎年、運河や尼ロックを知るイベントを開いており、27日には工場の夜景を背景に音楽や飲食を楽しむ催し「キャナルフライデー」を開催する。

(編集委員 宮内禎一)

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