一枚上手の相撲論(浅香山博之)

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ライバル力士と切磋琢磨 「何くそ」と思い高め合う

2019/9/6 5:30
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大相撲秋場所は8日、両国国技館で初日を迎える。上位のベテラン勢に対して、着実に力をつけてきた御嶽海や朝乃山といった20代半ばの中堅どころがどこまで食い込めるか。互いに意識し合う同年代の力士たちの競争に注目したい。

名古屋場所の取組で朝乃山(右)を攻める御嶽海。同年代で互いに意識し合う力士たちの競争が注目される=共同

名古屋場所の取組で朝乃山(右)を攻める御嶽海。同年代で互いに意識し合う力士たちの競争が注目される=共同

誰に対しても負けたくないと思うのは当然だが、同期やライバルとの一番で勝ったときのうれしさ、負けたときの悔しさは特別なものがある。私が15歳で初土俵を踏んだ昭和63年(1988年)春場所の同期には、若花田(後の横綱3代目若乃花)や貴花田(横綱貴乃花)、曙という、そうそうたる顔ぶれがいた。教習所などでも一緒に過ごしてはいたが、特に若貴は入門前からマスコミに騒がれていたし、話題が全てあちらに集中していたので、もう最初から別の世界にいるような感覚だった。

別格だが同い年の貴乃花からいい刺激

とはいえ、そんな状況に嫉妬を覚えることもなかった。入門まで相撲と何の関係もない素人だった自分と違って、相撲部屋で生まれ育った若貴は幼い頃から相撲に触れて育ってきた人間。悔しいとも思えないほど力の差があった。実際、序ノ口で若花田と初対戦したときはあっという間に負けてしまった。その後は対戦の機会もないまま、彼らがどんどん出世していくのを下の番付から見ているだけだった。

なかなか追いつけないし、追い越すなんてとんでもない。そんな別格の存在とはいえ貴乃花は同い年。彼がどんどん強くなって上位で活躍している姿をみていると、自分も頑張って稽古すればやれるんじゃないか、という思いが湧いてきた。下の方でうろちょろしていた当時の自分からすると生意気だったかもしれないけれど、早く番付を上げていつか倒したいという思いが芽生えたおかげで、自分も19歳で新十両昇進、20歳で新入幕を果たすことができた。本当にいい刺激をもらったと思う。

ただ、同期や同い年としての意識はあっても、自分は最後まで若貴や曙を一方的に追いかける立場で、ライバルという感覚を持つところまではたどりつけなかった。そういう意味では、最初のライバルと呼べる力士は武双山だったのだろう。

自分が関取になった後に元アマチュア横綱として鳴り物入りで角界に入ってきた相手に対して、こちらはアマ経験はないがプロで何年もやってきたという意地があった。マスコミで比較されたことで意識した面もあったけれど、同じ72年生まれの相手に負けられないという気持ちは強かった。

ライバルと出稽古でどんどんぶつかれ

やはりライバルに対しては自然と対抗心が湧き、稽古にも身が入ってくるものだ。武双山が自分より早く2000年初場所で幕内初優勝し、続く春場所で大関昇進を決めたときの悔しい思いが、相撲に対する考え方や稽古の仕方を変えるきっかけになった。徹底した体調管理とケガのリハビリに打ち込んだおかげで、同じ年の夏場所での初優勝、名古屋場所後の大関昇進につなげることができた。

武双山のいる武蔵川部屋には、場所前もよく出稽古にいった。最近はライバルに手の内を見せたくないといって一緒に稽古をしたがらない力士も多いようだが、自分たちの時代は何十番でも思い切り稽古したものだ。そこで力を出し切るからこそ、さらに力がつき、お互いを高め合うことができた。

相手の強さを知ることで、もっと自分も稽古しないといけない、ああしなきゃいけないということがわかってくる。たとえ手の内を見せたとしても、自分がもっと力をつければ関係ない。理屈ばかりいうような相手には、その理屈ごと打ち砕いてみせるのが本当の強さだろう。

夏巡業の稽古で胸を出す朝乃山(手前左)。後方右は御嶽海=共同

夏巡業の稽古で胸を出す朝乃山(手前左)。後方右は御嶽海=共同

今年の夏場所で平幕優勝した朝乃山に対して、御嶽海などはかなり対抗心を燃やしていると聞く。同年代の力士にとってはいい刺激になったのだろうが、だったら出稽古などでどんどんぶつかり合えばいい。御嶽海には相撲のうまさ、センスがあるし、朝乃山も自分の型を持っている。彼らが相手に何をされても動じないような力士になれれば、もっともっと強くなれる。相手がどんな動きをしても反応できるような対応力を磨くには、自分の部屋での稽古よりも積極的に出稽古に出た方がいい。

自分自身を鍛えて強くなっていくためには、自分よりも強いと思えるライバルが必要だ。ライバルが横綱を倒せば、自分だって倒してやるという気持ちになる。しっかり稽古してライバルを突き放していくと、突き放された方も「何くそ」と思って追いついていく。

今の中堅たちがそんな気持ちになれる相手と切磋琢磨(せっさたくま)して、ベテラン勢を追い抜いて優勝争いするようになってほしい。「この力士たちは意識し合っているな」とファンの目から見てもわかるような関係が築き上げられれば、もっと土俵が面白くなっていくはずだ。

(元大関魁皇)

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