千葉都市モノレール、延伸中止を正式決定 採算性低く
千葉市は4日、千葉都市モノレールの延伸計画について中止すると正式に発表した。市は2018年夏から事業化の可否を判断するため再検証を進めてきたが、複数の延伸計画について採算性が低いと判断した。市民の足として定着するモノレールだが、巨額の事業費が伴う延伸には否定的な見方も多かった。

千葉都市モノレールは1988年に千葉県、千葉市などの共同出資で開通した。だが、利用者の伸び悩みで累積損失が膨らみ、06年に県がモノレール事業から撤退。その後も千葉市が約2キロメートルの延伸計画を検討していたが、財政再建を公約に掲げて09年に初当選した熊谷俊人市長が延伸計画を凍結した。
その後17年9月に、市財政の改善を促す「脱・財政危機宣言」を解除し、改めて延伸の可否を判断するための検証作業に着手。18年度予算に関連費用として1800万円を計上し、県庁前駅から市立青葉病院(中央区)と、穴川駅(稲毛区)からJR稲毛駅・稲毛海岸駅方面の2ルートの延伸可否を判断する再検証業務を外部機関に委託した。
市が4日に公表した調査結果によると、県庁前駅~市立青葉病院の「病院ルート」は、1.9キロメートルの延伸により概算整備費が196億円。1日当たりの利用者数は3200人で、投資額に対する経済効果の高さを示す費用便益比(B/C)は0.87だった。B/Cは一般的に1以上でその事業は「妥当」とされる。

病院ルートを巡っては、延伸計画の凍結前に市が示していた試算では、建設費がモノレール建設や街路整備、県庁前駅の改修などを含めて176億円。青葉病院まで延伸することで1日平均乗客数が約8800人増え、費用便益比は3.57。延伸から約30年後にモノレール会社の収支が約83億円の増収になると見込んでいた。
一方で穴川駅~JR稲毛駅・稲毛海岸駅方面の「稲毛ルート」の試算結果は4.3キロメートルの延伸による概算整備費が494億円。1日当たりの利用者数は1200人で、費用便益比は0.73だった。
熊谷市長は再検証の中間報告を受けた5月時点で、延伸の可否を最終判断するにあたり、費用便益比の分析結果を最重視する考えを示していた。今回の再検証では2ルートとも「投資額を上回る効果が出せない」と判定された。延伸した場合に市財政やモノレール会社の経営を圧迫することが明白となり、市として延伸中止の最終判断に至った。

市は現在、21年度からの地域公共交通網形成計画を策定中だ。今回の延伸中止を受けて、バス会社などと連携して路線やダイヤの再編などに着手し、事業者・利用者双方が同意できる持続可能な公共交通網の再構築を目指す。
社会経済情勢の変化対応、重要に
千葉都市モノレールの延伸中止が決まった。前市長が推進した延伸計画について、市の財政難を理由に熊谷市長が凍結を表明してから10年。市民が客観的なデータに基づき、延伸事業の採算性を冷静に判断する環境が整ったとも言える。市幹部は「再検証の結果を踏まえて、市長も迷いなく判断した」と話す。
再検証で延伸計画が投資額を上回る経済効果をもたらさないことが明白となった。一方で延伸計画を推進していた当時の市の試算では「病院ルート」の費用便益比が3.57。今回の結果とは4倍以上の乖離(かいり)がある。そもそも市試算では延伸ルートと競合する民間のバス路線が全て廃止されるなど、採算性を水増しするための現実離れした前提条件が設定されていた。結論ありきと言われても仕方ない。
熊谷市長が初当選した10年前の市長選で延伸問題は大きな争点となったが、今回の延伸中止の結論について市議会や市民からの表立った反発はないようだ。この10年間で日本も世界に先駆けて人口減少社会に突入し、行政サービスの縮小が避けられない中で自治体財政に対する有権者の目も厳しさを増している。
いったん動き出したら止まらないと言われる大型公共事業の抜本的な見直しは人口減と財政難に直面する全国の自治体共通の課題だ。社会経済状況の変化に応じた臨機応変な政策判断は、今の時代こそ行政機関のトップに求められる最重要の資質だ。今回の延伸事業の顛末(てんまつ)から市民や行政当局が学ぶべき教訓は多い。(飯塚遼)
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