今日も走ろう(鏑木毅)

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反骨精神宿る祖父の教え 自由に意見・行動の幸せ

2019/9/5 5:30
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8月15日、今年も終戦の日が訪れた。この日が来ると亡くなった祖父を思い出す。祖父は30年前に79歳で亡くなった。陽気で話し好き。いつも昔話を楽しそうに語っていた。日本史、なかでも特に昭和史に興味があった私にとって祖父は生き字引のような存在であった。

私の名の「毅」も祖父が命名した。祖父の青春時代に脱藩閥政治、護憲政治を旗印に活躍した政治家の犬養毅(首相在任中に五・一五事件で凶弾にたおれる)からとったとのことだ。かたくなに立憲政治を守ろうとしたその姿に祖父は心引かれたのかもしれない。

つらくても走り抜く意思は強固だ(2016年、チリ・パタゴニアのレース最終盤の補給所で)

つらくても走り抜く意思は強固だ(2016年、チリ・パタゴニアのレース最終盤の補給所で)

祖父は戦争について独自の考えを持ち、口癖は「戦争は絶対にやっちゃダメだ。でももっと恐ろしいのは思ったことを自由に言えなくなること」だった。

当時ジャーナリスト志望だった私の思いをくんでか、戦前のことを繰り返し教えてくれた。戦時中の空襲や食料不足などの苦しい生活も印象的だったが、私の心に今でも残っているのは満州事変から終戦までの14年間だ。世の中が閉塞感に襲われ始め、次第に全体主義的な方向へと進み、画一的な行動、考えを強要され、そして自由な言論が封じられていく。祖父の口から聞く生々しい体験は、聞く側の私にとっては歴史の中の出来事にすぎないとはいえ、青年時代の心に強く刻まれ、今もってなお心に残っている。

祖父の戦後は、戦前、戦中より苦しいものだったそうだ。地主の家に婿に入り、戦前は小作農家からの小作料で生活は豊かだったという。だが戦後の農地改革で小作地を手放すことになり、わずかに残された農地を見よう見まねで耕作したものの生活は困窮した。また聴覚障害で兵役を免れたことで周囲からの偏見もあり、精神的な重圧は非常に大きかったらしい。

それでも祖父はこの農地改革を進めたマッカーサー連合国軍最高司令官を「彼は大したものだ。あれをやらなければ日本は良くならなかったからな。みんな平等がいいんだよ」と恨み言一つ言わなかった。

このように我々の前の世代には戦争を経験し、伝えてくれる人々が多くいた。だがこれから社会をけん引する世代は、戦争が遠くなり、単なる歴史の出来事になりかねない。いま私にできることは祖父が教えてくれたようにあの悲惨な戦争を二度と繰り返さないよう、娘や身近な存在に思いを伝えることだ。

明治、大正、昭和、平成の激動の時代を生きた祖父がいつも語っていたのは、特権意識の危うさや常に自由に意見を述べ、行動できる幸せ、そして民意こそが世の中を変えるという社会意識を持つことの大切さだったように思う。

祖父の平等主義と自分の主張をどこまでも通していこうとする生き方は、ジャーナリストの夢がついえて、スポーツ選手として生きる今となっても一種の反骨精神として私自身の中に確実に宿っている。

(プロトレイルランナー)

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