家族全員ひとり1台ずつ 僕らがテスラを選ぶ理由

現在のEV(電気自動車)ブームを語る上で外せない、米国ベンチャーのテスラ。2012年に発売したプレミアムな「モデルS」が世界的にヒット。受注開始から約1カ月で約40万件の予約を獲得した中核モデル「モデル3」も、いよいよ日本へ上陸する。自動車メーカーとしては新参のテスラは、米国でなぜ支持されるのか。カリフォルニア州のオレンジカウンティーで、父はモデルS、母はモデル3、息子はテスラ・ロードスターに乗るダウ一家に小沢コージ氏が話を聞いた。
LAは昔から環境問題が深刻だった
小沢コージ(以下、小沢) 大胆な発言で有名な創業者イーロン・マスク氏率いるテスラは、なんだかんだ日本でも人気ですし、話題にもなります。ダウさんのご家族は、一体なぜ家族全員でテスラに乗ってるんですか?
ジェーソン・ダウ(息子。以下、ジェーソン) きっかけは僕かな。僕がまず6年前にロードスターに乗り始めたんだけど、2017年に父にモデルSを薦めて、18年に母がモデル3を買ったんだ。
スーザン・ダウ(母。以下、スーザン) すごく気に入っているわ(笑)。
ジェーソン 根本には公害問題があるよね。1960年代、父が高校生の頃、LAは排ガスによる大気汚染で多くの人がぜんそくになるほどひどい状態だったんだ。子供の頃に見えていた近くの山が見えなくなるくらいのね。
小沢 LAは海と山に挟まれて排ガスがたまりやすくて大気汚染がひどいとは聞いてましたが、本当に深刻だったんですね。
スーザン 当時は頻繁に光化学スモッグ警報が出ていたものよ。「子どもや高齢者、妊婦さんは外出しないように」って。
小沢 それは日本も同じです。僕が小学生だった70年代、光化学スモッグが問題になりました。真夏の昼間とか「外で遊ばないように」とアナウンスされて。
ジム・ダウ(父。以下、ジム) 昔は誰も気にしていなかったんだよ。何がどんな排ガスを出してるかなんて。
スーザン やがて気づいたのね。「これはなんとかしなきゃいけない」って。
小沢 日本は今や、中国から飛んでくるPM2.5や黄砂が問題になってます。
ジェーソン 中国も努力しているみたいだけどね。
ジム ところで寿司はどうなんだろう。中国で食べる寿司は?
ジェーソン あえてあっちで寿司は食べたくないんじゃない? 別にメキシコ料理を食べにスペインに行かないだろ?
ジム だな(笑)



家族で世界の環境問題を討論するLA
小沢 しかしずいぶん家族で気にしてるんですね。世界的な環境問題を。
ジェーソン 70年代のアメリカの環境状態を示すポスターを見れば72年のオハイオ州の上空がどんな様子だったかわかる。
小沢 大気汚染のほとんどは車の排ガス?
ジェーソン そう、車だね。
小沢 工場の排ガスはないんですか?
ジェーソン もちろん、それも入っている。今、昔に比べて自動車の交通量は3倍になったけど、空気は逆に大幅にキレイになっているんだ。カリフォルニア州の厳しい排ガス規制によってね。
小沢 ずいぶん詳しいですね。だから迷わず自分でテスラを買うし、人に薦めるんだ。そして当然、今の厳しいLAの排ガス規制を支持しているんですね。
ジェームス もちろんだよ。
小沢 ってことは環境規制を緩和しようとしているトランプ大統領は?
スーザン (親指を下げて)ブー! あり得ない。

小沢 なるほど。すごく分かりやすいです(笑)。ちなみに日本も確かに光化学スモッグ時代は大気汚染にセンシティブでしたが、今でも一般市民がすごく気にしてるかっていうとどうでしょう? 日本は一応その状態から抜け出たように見えます。
ジム 大気汚染は今、中国のほうが深刻だろうね。先日、中国から帰ってきたサンノゼ(同州)在住の友人が愚痴ってたよ。「中国は平気で山火事が起きている」と。中国政府の方針が変われば即座に改善するんだろうけど。
ジェームス そこが日本との大きな違いだよね。中国では、政府の方針が変わると全てが瞬時にガラッと変わる。
小沢 よくお分かりですね。中国は一党独裁体制なので対応が早いけど、日本はなかなかドラスチックな政治変化が望めなくて。
スーザン 2005年にジムと北京に行ったのよ。当時の道路交通は最悪だったわ。車やバスやバイクがひしめき合うように走っていた。でも、その後15年に再訪したら、ワオ、道路はきれいだし、車やバイクは専用レーンをきちんと走っているし、目に入る風景もぐんと広がって緑も増えていた。美しい高速道路もあって、車両のナンバープレートごとに走行できる曜日が決まっているのね。この10年でずいぶん変わったわ。
小沢 中国の大都市は渋滞がすごすぎて、自動車の総量規制が行われてますからね。
ジェームス 面白いのは北京とLAは地形が似てるということ。中国は今、40年前のLAと同じ状態なんだよ。その気になれば大気汚染も解決できるはず。
蛾が白から黒に進化したように自動車もEVへと
ジェームス 進化と言えば、面白い話があるんだ。ロンドンには固有種の白い蛾(ガ)が生息してたんだけど、産業革命が始まり、石炭を盛大に燃やし始めたら、ロンドン中が黒いすすで覆われた。すると白い蛾が目立ち過ぎて鳥などの天敵に食べられてしまった。そうしたら灰色や黒色の蛾が出現し始めたんだって。つまり捕食から逃れるためのカムフラージュ、要するに進化だよ(笑)。
小沢 へぇ、ロンドンの蛾が白から黒に変わった?
ジェームス EVについて言うと20世紀初頭に、ニューヨークのタイムズスクエアで撮影された興味深い写真がある。(パソコンのディスプレーに2枚の写真を表示して)上の写真は馬車やバギーがひしめき合っているけど、虫眼鏡でよーく見ると、車は1台しかないでしょ。
小沢 なるほど。
ジェームス ところが1913年、同じ場所を撮った写真には車がひしめき合ってる。たった10年であまりの劇的変化。だから今後10年とはいかないまでも、20年後にタイムズスクエアはEVでひしめき合ってるんじゃないかと。
スーザン それに私はEVに乗っている父の写真を持ってるのよ、1928年の。あの頃すでに作っていたのよ電気自動車を。
小沢 そもそもEVが身近なんですね、LAでは。
ジェームス 鍵はバッテリー性能だね。僕のロードスターが発売されたときに比べて、パナソニック製リチウムイオン電池の1セルあたりの性能はほぼ倍になっている。
小沢 でもその一方で、米国では「ガソリンバカ食い」のフォードのピックアップトラックFシリーズがバカ売れしていると聞きましたが?
ジム 今、米国で最も売れている車だよ。ユーザーの50%は仕事などでピックアップが必要な人たち。残りの50%は見えだろうね。私も持ってるし(笑)。
小沢 現代のアメリカの人にとって、ピックアップトラックは馬車みたいなものということですか。
ジェームス 物を運ぶのに必要だし、それ以上に米国人は「これをするのに1回だけ必要になるかも」「そのうち使うかも」でクルマを買っちゃう人種なんだ(笑)。本当だよ。
スーザン&ジム キャンパーとか、トレーラーとかね。
小沢 クルマ購入に対する障壁が低く、思いつきで買えちゃうんですね。ろくに使いそうもないクルマでも2台目、3台目で。
ジェームス 国土が広いから、根本的にクルマが必要だし、日本のような島国とはそもそも感覚も違うし、需要も違うんだ。
小沢 日本はクルマを所有するだけでハードルが高いですから。特に東京は。
ジェームス マンハッタンと同じだね。あそこに住んでる人はピックアップトラックを持っていないし。
小沢 ってことは今後も米国はEVとピックアップが共存する?
ジェームス そこは大統領次第だろうね(笑)。

自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」、不定期で「carview!」「VividCar」などに寄稿。著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)など。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
(編集協力 北川雅恵)
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