2019年9月19日(木)

トランプ氏地盤が景気後退?(The Economist)

The Economist
2019/9/3 2:00
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個別の様々な発表がいつ大きな意味を持つようになるかを判断するのは難しい。

2018年11月以降、米自動車大手ゼネラル・モーターズは米中西部の複数の工場で計数千人に上る工場労働者を解雇した。この8月上旬には、米鉄鋼大手USスチールがミシガン州で200人を解雇すると発表した。キャンピングカーの販売台数は、7月までの1年間で23%減少し、その主な生産拠点であるインディアナ州では数千人の労働者の生活が脅かされている。苦境に直面しているのは工場の従業員だけではない。米ホームセンター大手ロウズはこのほど、数千人規模の従業員削減を発表した。資源開発大手のハリバートンも同様だ。

米ゼネラル・モーターズは昨年11月以降、米中西部の複数の工場で数千人を解雇した。写真は同社のテネシー工場=ロイター

米ゼネラル・モーターズは昨年11月以降、米中西部の複数の工場で数千人を解雇した。写真は同社のテネシー工場=ロイター

■「住宅は景気サイクルそのものだ」

米国では、たとえ好況の真っただ中でも、毎月500万人以上が離職しており、その200万人近くは解雇による。雇用者総数は、ほとんどの月で増えているが例外の月もある。米国が今、景気後退に向かっていると断言はできないが、その可能性はある。雇用と生産は伸び続けているが、景気後退の際、いつも最初に問題が顕在化する業種では、既に不穏な前兆が表れているからだ。

景気が後退すると、様々な経済活動が同時に衰退する。典型的症状として、ほぼ全ての業種で需要が弱まる。いくつかの業種では、他の業種よりも景気サイクルの波が激しい。つまり、山はより高く、谷はより深い。景気後退の最初期の段階で打撃を受けやすい業種もあれば、時間がたってから弱まる業種もある。その景気後退の在り方は毎回、異なる。例えば原油価格の上昇をきっかけに不振に陥る景気後退は、金融危機や増税が引き起こす不況とは違う形で進行する。

しかし大半の景気後退は、米連邦準備理事会(FRB)がインフレの行き過ぎを避けようと利上げを繰り返した後に起きる。多くの場合、最初の兆候は、融資を手ごろな利率で受けられるかどうかに成長が大きく左右される分野に表れる。住宅はその一つだ。ローン金利が上昇すると新規住宅需要は細る。経済学者で米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授を務めるエドワード・リーマー氏は07年の論文で「住宅分野は景気サイクルそのものだ」と言い切った。確かに最近の歴史はそれを裏付けている。

米国の住宅投資は、08年の金融危機が始まる2年前から減少に転じ、住宅産業の雇用は06年4月をピークに減少した。当時の住宅市場は異常だった面もあるが、その前の01年のドットコム・バブル崩壊後の景気後退でも、住宅分野は早い時期から警告を発していた。住宅建設向けの雇用は景気後退が始まるちょうど1年前にピークを迎えていた。

■技術革新がデータの読み方を難しくしている

今はどうだろう。住宅投資は18年初頭から減り始めており、住宅業界の雇用も19年3月以降減っている。

それでも事態は改善に向かうかもしれない。FRBは7月に続き9月にも利下げする可能性がある。住宅購入者がそれに素早く反応すれば、建設業と経済は上向くかもしれない。

だが、警告を発しているのは住宅だけではない。製造業も、他の経済分野より早く失速する傾向がある。利上げでドル高になると、米輸出企業の海外での競争力は落ちる。借入金利が上昇すれば、自動車や家電といった耐久消費財の売れ行きは鈍化し、在庫が積み上がることになる。

前回の景気サイクルでは、耐久消費財製造向けの雇用は景気後退が始まる約1年半前の06年6月にピークに達した。製造業は今年、まさにそうした厳しい状況に直面している。製造業購買担当者景気指数は8月、下落した。18年12月以降、製造業生産は1.5%下がっている。不吉なことに主要経済指標とされる労働時間も減っている。

これらの現象の一部は、トランプ米大統領がしかけた貿易戦争が製造業に与えた打撃という面もあるが、それが唯一の理由ではない。米自動車販売は過去数カ月減少しており、これは消費者が大きな買い物に慎重になっていることを示唆している。

業種によっては、技術がもたらす変化がデータの解釈を難しくしている。

石油関連産業での雇用の急増は、従来は消費者には打撃となる原油価格急騰を伴う傾向があったため米経済にとっては悪い兆しだった。だがシェール革命のおかげで米国は現在、消費量に匹敵する原油を生産している。そのため最近、石油産業で雇用が減り、原油採掘に費やす時間も縮小しているのはむしろ悪い兆しかもしれない。

対照的に小売業での雇用減は、従来は疑う余地のない悪いニュースだった。米小売業の雇用はこの2年半減少し続けているが、これは景気後退の予兆というより電子商取引への経済構造の移行を示している可能性がある。

他の兆候はもっと明白だ。この数十年、人材派遣業は景気後退が始まる約1年前がピークだった。09年に派遣の雇用が増加に転じた際は、待ち望まれていた労働市場の回復への前兆の一つとみなされた。だが、派遣件数は昨年12月から3万減っている。

たとえ米国が景気後退を回避できても、現在の経済の減速は政治的に重大な結果をもたらす可能性がある。小売業など一部業種の弱さは、全国にかなり均等に広がっているが、建設業、そして特に製造業の不振による苦境は一部の地域に集中している(地図参照)

■中西部の不振、大統領選に影響する可能性も

インディアナ州では08年の金融危機以降、10万人以上の製造業従事者が職を失った。これは同州の雇用総数の4%にあたる。現在、雇用が徐々ではあるが減っている州の数が少しずつ増えており、インディアナはその一つだ。他にオハイオ、ペンシルベニアやミシガンも含まれる。

この4州は米製造業を担う重要な地域の一部で、08年の金融危機の際もいち早く影響を受け、深い傷を負った。16年の大統領選ではいずれの州でもトランプ氏が勝利し、それがトランプ大統領の誕生につながった。同氏は、貿易戦争がこれらの州の有権者に評価されると期待していたかもしれない。しかし、経済不安が続けば、有権者の信頼は揺らぐだろう。閉塞感が強まれば、それらの州が民主党支持に変わる可能性はある。

(c)2019 The Economist Newspaper Limited. August 31, 2019 All rights reserved.

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