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ワインを甘くおいしく 酸化防止剤なしで醸す日本の技

エンジョイ・ワイン(16)

サントリーの「酸化防止剤無添加のおいしいワイン。」シリーズなど、酸化防止剤無添加ワインは消費が拡大している

ワインの製造に欠かせないとされる酸化防止剤をあえて使わない「酸化防止剤無添加ワイン」が人気だ。この日本独自のワインはワイン全体の消費が伸び悩む中、緩やかに右肩上がりを続け、今や国産ワイン市場の4割を占める。人気の理由が消費者の健康志向と、1本500円前後からという手ごろ感にあるのは間違いない。だが取材すると、それ以外の、日本ならではの理由もあった。

酸化防止剤無添加ワイン大手のサントリーホールディングスによると、同社の「酸化防止剤無添加のおいしいワイン。」シリーズの2018年の販売量は186万ケース(1ケースは12本)となり、前年比3%増を記録。今年1~6月は前年同期比8%増で、売れ行きに拍車が掛かっている。ワインの消費量に頭打ち感が漂う中、目を見張る数字だ。

サントリーは他社ブランドを含めた酸化防止剤無添加ワイン市場全体に関しても、今年は前年比6%増と予想。一方、同じく大手メーカーのメルシャンによると、金額ベースで見た酸化防止剤無添加ワイン市場は国産ワイン全体の約4割に達している。主要購買層は「健康志向の強い50代以上の男女」(椎木絵理サントリーワインインターナショナル国産ブランド部課長)だ。

ちなみに「国産ワイン」とは、一般に、輸入果汁や輸入ワインを使って国内で製造したワインを指し、国産ブドウを原料とした「日本ワイン」とは別。流通量で見ると、国産ワインは日本ワインの約7倍の規模で、輸入ワインを含めた全ワイン流通量の3割弱を占める。

酸化防止剤の正体は亜硫酸塩だ。大抵のワインはボトルに「酸化防止剤(亜硫酸塩)含有」と書いてある。国税庁の「酒類製造における亜硫酸の適正使用について」によれば、亜硫酸塩は「酸化の防止、有害な微生物の殺菌や繁殖の防止、不快な刺激臭を抑制することなど様々な効果がある」半面、「有毒であることから、取扱いに注意」しなければならない。そのため、食品衛生法は亜硫酸塩の添加量をワイン1キログラムあたり0.35グラムまでと定めている。使用した場合は表示義務があり、欧米にも同様の規制がある。また、国税庁の説明からもわかるように、亜硫酸塩は酸化防止剤としてだけでなく、保存料としての役目もある。

メルシャンの「おいしい酸化防止剤無添加ワイン」

どの国でも、政府やワイン業界は亜硫酸塩は適正に使えば問題ない、という立場だ。しかし、少量でも体への影響があると主張する生産者や専門家は少なくない。世界的な権威「マスター・オブ・ワイン」の資格を持つフランス人のイザベル・レジュロンは、著書「自然派ワイン入門」(清水玲奈訳)で英国の研究論文を引きながら、亜硫酸塩にはアルコールが体内で分解され無毒化するのを妨げる効果があると指摘し、使用に否定的だ。亜硫酸塩の添加量を減らすのは世界的な流れでもある。

安全性の議論はさて置き、ワインの製造に必要とされる亜硫酸塩を一切添加せずに、どうやって品質のよいワインを造れるのだろうか。

栃木県足利市にあるCfaバックヤードワイナリーの経営者で醸造コンサルタントの増子敬公さんは、「酸化防止剤無添加ワインの製造にとって重要な技術は窒素ガスの利用、加熱処理、精密濾(ろ)過の3つ」と指摘。そして「この3つのいくつか、あるいはすべてをうまく組み合わせることが、上質の酸化防止剤無添加ワインを造るカギ」と話す。

窒素ガスは様々な工程で使う。主には、原料果汁をタンクで発酵させる際にタンク内に注入する。それによってタンク内の酸素を追い出し、亜硫酸塩を添加しなくてもワインを酸化から守ることができる。瓶詰時に窒素ガスを添加する場合もある。窒素ガスの利用は一般のワイン製造でも導入が進んでいる。

ワインにとって酸化がよくないのは、酸化すると、フレッシュな果実の香りや味わいが失われるからだ。白ワインの場合は外観が褐色になる「褐変」も起きる。特に1本1000円未満で売られているようなデイリーワインはフレッシュさが身上のため、製造過程でいかに酸化を防ぐかが非常に重要になる。

サントリーの「酸化防止剤無添加のおいしいワイン。」

加熱処理は主に瓶詰した直後に施す。ボトルごと加熱し、ワインの温度を50度前後以上に高めると、ワイン中に残存する微生物が死滅し、酵素も破壊される。これによって、亜硫酸塩を加えなくても、ワインの変質を防ぐことができる。加熱処理は同じ醸造酒である日本酒の世界では「火入れ」と呼ばれ、室町時代から行われてきた。つまり、日本の伝統の技を応用したとも言える。

濾過は微生物の除去が目的で、瓶詰前に行う。通常のワインの製造でも行われているが、穴の大きさが1000分の1ミリ未満という高性能フィルターが開発されたことで、酸化防止剤無添加ワインの製造がより容易になった。

発酵食品であるワインにとって、微生物の徹底した除去はもろ刃の剣でもある。「ワインの味わいをゆっくりと高めてくれる有用な微生物まで取り除いてしまう」(増子さん)からだ。ただ、酸化防止剤無添加ワインは短期間で消費されることを想定しているため、メーカーは微生物による汚染リスクを避けることのほうをより重視しているようだ。

こうして造られる酸化防止剤無添加ワインには、実はもう一つ売れる理由があった。日本人の好みに合うよう、様々な醸造技術を駆使してワインの風味を調整してあるのだ。

一般に、白ワインは酸味と果実味のバランス、赤ワインは酸味と果実味、タンニン(渋み)のバランスが、おいしいワインの条件とされる。しかし、辛口ワインに慣れていない日本人、とりわけ酸化防止剤無添加ワインの主要購買層である中高年には、ワイン独特の酸味やタンニンが苦手な人も多い。

そのため、酸化防止剤無添加ワインのほとんどは白も赤も酸味を抑え、赤はタンニンもほぼ感じない、「やや辛口」や「やや甘口」の味わいに仕立ててある。「酸化防止剤無添加」の文字にひかれて買い、意外においしいと感じてリピーターになるのには、こんな秘密が隠されていたのだ。

甘めの味わいにするもう一つの理由は食事との相性だ。照り焼きやかば焼き、肉じゃがなど、しょうゆや砂糖、みりんで味付けした甘辛味の和食には、実は辛口ワインはあまり合わない。酸味やタンニンが甘辛い味とけんかしてしまうためだ。だが、味わいが似通った酸化防止剤無添加ワインだと、逆に舌の上でハーモニーを奏でる。「ワインの程よい甘さが食材の辛さを中和してくれるので、カレーにも合う」(椎木さん)。

財布にやさしく、安心して飲め、日本の食卓にも合う。そんな酸化防止剤無添加ワインは、まさに家飲みにピッタリのワインと言えそうだ。

(ライター 猪瀬聖)

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