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年金、もらっている人も減っていく 重み増す自助努力

老後のお金 財政検証(上)

年金支給水準は下がっていく

将来、自分がもらう公的年金がどの程度先細りするかは日本経済次第――。厚生労働省がこのほど公表した年金制度の将来見通し(財政検証)が突きつけた現実だ。経済が順調に推移すれば年金支給水準は今より2割弱下がるだけで収まるが、どんどん低迷していくようだと4割ほども低下しかねない。人生100年時代、個人は公的年金を「抑えのピッチャー」ととらえ、それだけに頼らない努力が必要になる。

6通りを試算

厚生年金や国民(基礎)年金といった公的年金は、働く人たちや企業が負担する年金保険料と税金を財源に支給される。つまり、労働が生む富の一部を保険料などとして拠出し、働けなくなった高齢者らに分配する仕組みだ。

経済が成長して富が大きくなれば、ある程度分配してもそう支障はないが、富が小さくなれば分配できる分も少なくなる。5年に1度実施される財政検証は、いくつかの経済前提を置いて将来どの程度の分配が可能なのかを点検し、必要に応じて制度を見直すための作業だ。

今回の検証では経済が成長するケースから低迷するケースまで6通りを試算した。その結果からまずいえるのは、日本は超高齢化で年金を受け取る人がどんどん増えるので、成長して富が多少増えても、年金の支給水準は今より下がらざるを得ないということだ。

現時点でモデル世帯が65歳で受け取り始める年金額は月22万円。これは現役男性の平均手取り月収の61.7%に相当する。この比率を所得代替率といい、公的年金の支給水準を示す。

働き手の確保を

長期的に年0.9%の実質経済成長があるとした、最も成長するケース(図Aケース(1))では、この所得代替率が約30年後に受け取り始める世帯で51.9%に下がる。約16%の低下だ。ただ同じ割合で年金額が減っていくわけではなく、あくまで約30年後の現役の収入に対する比率が低下するということ。現役は賃金がある程度増えるが、高齢者の年金額はそう増えない未来を想像すればよい。

経済が最も低迷するケース(図Aケース(3))は長期的に年0.5%のマイナス成長が続くと仮定する。このシナリオでは、途中で国民年金の積立金がなくなり、所得代替率は30年以上先に受け取り始める世帯で最終的に36~38%になる。今よりも40%も低くなる。現役の賃金はほとんど増えず、年金額は明確に減るという暗い未来だ。

政府は所得代替率について、将来世代が受け取り始めるときでも常に50%以上を維持することを目標に掲げている。日本総研の山田久理事は「そのためにはシニアの就労促進などで働き手を確保することや、企業の利益がしっかり賃金に回る環境整備が必要」と指摘する。

子供を産み育てやすい社会をつくって、少子化を抑えることなども明るい未来につながる。数十年後の社会がどうなっているかなどだれにもわからない。財政検証の6ケースの真ん中に必ず落ち着くというものでもない。よりよい未来に向けた取り組み次第だ。

シニア世代にも影響

「若い人は大変だなあ」。すでに年金を受け取っている人や定年間近の人で、こんなふうに思う人がいれば認識を改めるべきだ。人ごとではないからだ。

少子高齢化を乗り切るために、いったん受け取り始めた年金についても金額を抑える仕組みなどが適用される。61.7%という現時点のモデル世帯の所得代替率がずっと維持できるわけではなく、もっとも経済が成長するケースでも25年後の90歳時点では41.9%まで下がる。シニア世代はこういう点も頭に入れておきたい。

財政検証では制度を見直すことによって、将来の年金水準が回復する場合があることも示した。65歳を過ぎてから年金を受け取れば、遅らせるほど額が増えていく。今は最大70歳までしか遅らせることができないが、政府は75歳まで延長することを検討中だ。

このほか、年金保険料の納付期間を長くすることなども検討課題になっている。これらを踏まえて75歳で受け取り始めれば、将来でも現役の平均賃金と同じ程度の年金額が確保できる場合があるという。75歳まで年金を受け取らずに済む人は限られるだろうが、できるだけ長く働いたり、企業年金などで生活したりするなど工夫の余地はある。

パート労働者の厚生年金加入を進めることも、支給水準引き上げにつながることが明らかになった。加入すれば保険料負担が発生して目先の手取りは減るが、将来の年金も考えて冷静に判断したいところだ。

「老後2000万円」が物議を醸したように、長い老後のお金に対する不安は大きい。しかし先発投手は働いて賃金を得る「勤労」、中継ぎは貯蓄や私的年金などの「金融資産」、抑えは「公的年金」と考え、先発と中継ぎでできる限り粘って抑えの登場を遅らせれば遅らせるほど、最期までの安心感は増すはずだ。

みずほ信託銀行の小野正昭・主席年金研究員は「個人は金融資産の形成に努め、国はそれを助ける環境を整備すべきだ」と語る。

未来を嘆いていても始まらない。よりよくなる方向へ国も個人も動き出したい。

(編集委員 山口聡)

[日本経済新聞朝刊2019年8月31日付]

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