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あのハマスタをDeNAベイスターズファンで青く染めたのは一度は夢を諦めかけた女性だった

U40の匠

横浜DeNAベイスターズといえば、今やチケット入手困難の人気プロ野球球団だ。DeNAの球団買収後、街づくりやイベントで横浜の人々の心をつかんだ新生ベイスターズ。順風満帆に見える球団経営だが、その裏には「あと数%の成長」を追い求めた女性社員の執念があった。

「U40の匠」とは各界で活躍する40歳未満(Under40)の若手社会人を「匠」(たくみ)と位置づけ、彼らが残してきた足跡に迫る連載企画です。

横浜DeNAベイスターズに原惇子が入社したのは2014年。ベイスターズはDeNAによる買収後、「地域密着」を掲げるとともに次々とイベントを成功させ、加速度的に成長する。11年の買収時50%台だった観客動員率は15年には、89%にまで上昇していた。しかし、9割の壁は超えられなかった。

プロ野球ビジネスの要はチケット販売だ。動員率はその売れ行きを大きく左右する。江戸川大学の小林至教授によると「満員のスタジアムは体験価値を上げ、リピーターにつながる」ためだ。

動員率9割を目前とし、ベイスターズは「満員」へ向け施策を加速させる。16年にチケット部企画グループのリーダーに抜てきされた原も含め、まさに「全員野球」だった。

まず、ベイスターズが取り組んだのが既存の概念を壊す座席設計だ。横浜スタジアムを含む球場は通常、一塁側がホーム、三塁側はビジターが慣例となっていた。

一塁側はイベントなどでファンが定着した一方、三塁側は対戦相手の応援客が中心になるため、ベイスターズのファンからは敬遠されがちだった。

「三塁側にもっとファンを」。固定観念を取り去るため「一塁・三塁」を「ベイサイド・スターサイド」に名称変更。場内アナウンスから問い合わせに至るまで新名称を徹底した。

さらに、あえて三塁側にベイスターズファン専用席を作り、三塁側に座る違和感をなくした。一連の施策で16年、観客動員率9割の壁を突破する。翌年は客足が落ちる春先のナイターに打ち出したイベントが成功し、動員率100%まで5ポイントを切った。

春先のナイターに打ち出したイベントが成功し、さらに動員率が高まった(横浜DeNAベイスターズ提供)

しかし、どうしても埋まらない席があった。観戦はしやすいが、対戦相手の応援席にも近い席だ。ライトなファン層にはやや値が張る。この「満員のための最後の追い込み」を原は会社から託された。「ほぼない余白を埋めるのは本当に苦しかった」と当時を振り返る。

「見やすい席なので、コアなファンなら座ってくれるのではないか」。当初そう考え、過去にも限定グッズを付けて、コアなファン獲得を狙ったが失敗。それでもめげずに連日横浜スタジアムに足を運び、データだけでは見えてこない顧客の属性や観戦スタイルを観察した。

トライ&エラーを続けながらも見えてきたのは、コアなファンばかりだと思っていたエリアにも、ユニホームを着用せずに、飲食を楽しむサラリーマンの姿が目立つこと。

ベイスターズファンと一緒にチームを応援したい層もいれば、ビールを片手に野球観戦を楽しみたい人もいる。今まで漠然と理解していた観客のニーズを、チケット販売方法とリンクさせて改めて考えた。

「スタジアム体験を楽しみたい属性に向け、施策を打ってみてはどうか」。原は「体験」に着目し、課題として残っていたエリアに、そこでしか体験することができないビール半額券付きチケットを販売。これが見事、彼らの心を捉えた。

小さな施策の積み重ねにより、ついに18年、ホーム全72試合中3試合を除く69試合で満員を達成する。観客動員率は97.4%に達した。驚異的な数字をたたき出した原はDeNAグループ全体で社長賞を受賞。上司の木村洋太氏は、「困難な課題であっても飄々(ひょうひょう)と成し遂げる」と評価する。

実はスポーツビジネスの世界に飛び込んだのはベイスターズが初めてだ。周囲の誰もが認める仕事ができるようになったのは過去経験した秘書業務にあるという。秘書は役員のスケジュール管理をすることがメイン業務だと思われがちだが、「周りの人が働きやすいように調整する仕事」という。

「手元にある情報を関係者のどこに共有すれば全体の仕事がスムーズにすすむか、発想力をもって先回りする」ことを6年間の秘書業務で学んだ。

現在はMD(マーチャンダイジング)部の部長としてグッズ販売を担当し、約30人の部下を率いる。大きく飛躍した原だが、チケット部時代から変わっていないマイルールがある。

特にトップ選手の試合観戦は、1度目の就職の際、スポーツビジネスの世界に入れず夢を諦めかけた原に、「もう一度」と初心を思い出させてくれた大切なルールだ。

今の夢は「スポーツ経験のない人でもスポーツを観戦することが当たり前のエンターテインメントになること」という。子供から大人まで愛される街のシンボルを目指して、原は今日も横浜の街を駆け回る。

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