リサイクル原料で海を再生 アサリ復活(風紋) - 日本経済新聞
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リサイクル原料で海を再生 アサリ復活(風紋)

リサイクル原料で海の環境を改善する取り組みが各地で成果を上げている。かつて全国有数の漁獲量を誇りながら1980年代から急減した九州有明海のアサリが回復した。ヘドロまみれだった閉鎖性海域に生物をよみがえらせたり、磯焼けした海岸に海藻を繁茂させたりもしている。

有明海沿いの九州4県のアサリ漁獲量は1977年に6万5千トンだったが、90年以降は1万トン以下に落ち込んでいる。福岡大工学部の渡辺亮一教授は「生育に欠かせない砂の流入が河川のダム建設や砂利採取で滞ったうえ、下水処理施設の普及でエサの植物プランクトンの栄養源となる『フルボ酸鉄』の供給が減ったため」と説明する。

フルボ酸鉄は山の落ち葉や枝が腐食してできるフルボ酸が土中や水中の鉄と反応してできる物質で、ヘドロ化した泥混じりの干潟の浄化に役立つ。

このため渡辺教授らは、下水処理場で発生する汚泥と間伐材の木くず、食品廃棄物などを発酵させて作ったフルボ酸鉄と、鉄鉱石に含まれるシリカを混ぜた水質浄化剤「フルボ酸鉄シリカ」を開発。1平方メートルあたり5~6個しかアサリが取れなかった干潟に置いたところ、半年後に200~300個を採取した。

昨年夏からは熊本県長洲町沿岸の漁場でアサリを増やす実証実験を行っている。北部漁業協同組合(同町)の上田浩次組合長(63)は「かつてほどではないが、漁獲量は確実に回復している」と話す。渡辺教授は「現代社会が止めてしまった自然の循環を取り戻す試み。リサイクル原料を使うため低コストなのが利点で、各地の干潟再生にも役立つ」と強調する。

一方、鉄鋼メーカーは製鉄の過程で副次的に生じる「鉄鋼スラグ」を再利用し、海の環境を改善する取り組みを続けている。

鉄鋼スラグは路盤材やコンクリート骨材、護岸工事などに使われてきたが、JFEスチールは海水・海底を浄化できる製品を開発。2011年夏からヘドロによる硫化水素の発生で悪臭が問題だった広島県福山市の福山内港の海底約4千平方メートルに投入した。その結果、硫化水素が大幅に減り酸素が増えて海藻類が根付いた。12年冬には姿を消していたホヤやカニ、ゴカイなどの生息も確認された。

鉄鋼スラグはコンブやワカメなど大型海藻類が枯れて藻場が消失する磯焼けの改善でも活用されている。日本製鉄は鉄鋼スラグと廃材チップの混合物を袋詰めした製品を開発し、14年から北海道増毛町の磯焼けが進んだ海岸に埋設する実証実験を行った。半年で沖合約30メートルまでコンブがびっしり生育していることを確認し「現在は全国38カ所で藻場の再生を進めている」(同社)という。

人間の営みで失われた自然の循環をリサイクル原料で人工的に回復させる試みが続く。(木村彰)

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